「ようこそ日本へ」~外国人観光客を惹きつけるためには

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 柳澤 大貴
日本政府観光局(JNTO)の統計によれば2010年の確定値で訪日外客数は過去最高の861万人であった。そのうちアジア地域からの外国人観光客が652万人と75%を占めている。他の先進国G8の観光集客(2009年)はどうなっているであろうか。結果は次の通りである。

1位 フランス 7420万人
2位 アメリカ 5488万人
3位 イタリア 4323万人
4位 イギリス 2803万人
5位 ドイツ  2422万人
6位 ロシア  1942万人
7位 カナダ  1577万人

日本以外の7カ国の外国人観光客数は年間1000万人を超えている。特筆すべきはフランスだ。フランスの人口は2010年で約6500万人。実に自国の人口以上の外国人観光客を獲得していることになる。日本もビジット・ジャパン事業において「訪日外国人3000万人プログラム」を設定し、第1期として2013年までに1500万人の目標達成を目指している。特に中国をはじめとする韓国、台湾、香港の東アジア諸国を最重点市場としている。直近は震災の影響で外国人観光客数は減少しているが、日本の匠の力を結集した復興に大いに期待するところである。

ここでは外国人観光客を惹きつけるポイントについて、旅行者の行動心理学的アプローチを試みたいと思う。海外旅行の多くはいわゆる計画購買である。衝動的に明日海外旅行へ行くという場合は稀なケースである。多くの人は数ヶ月前から情報収集を行い、候補地やプランを絞りこみ、行程を決定する。そして出発日を迎え、実際に旅行を楽しむ。さらに帰国後は思い出話を語り合い、盛り上がる。つまり旅行には旅行前、旅行中、旅行後の3つのプロセスが存在する。さっそくプロセス毎に要点を抽出してみよう。

旅行前の重要ポイントは、海外旅行に行こうと思った人の心のなかに日本という国が思い浮かぶかどうかである。「行こう」と思ったときに、日本が第1位でイメージされることが理想である。少なくとも候補地の3位以内に日本が入っていることが望ましい。心のなかに浮かんでこないものは何であれ、その対象とはならないからである。これはマーケティングの世界でマインドシェアとも言われる。大規模なキャンペーンやイベントも重要であると同時に、折に触れ「海外旅行=日本」と結びつくような地道な仕掛けが必要である。効果的なタイトルや写真、キャッチコピー、体験者の声、価格設定など琴線に触れる内容が欠かせない。

旅行中は「内容とレベルが期待通り、あるいはそれ以上であった」と感じていただかなければならない。旅行者が「自分の選択は正しかった」と思うことが重要なポイントである。それは多くの場合は支払った費用、他の旅行の経験、他人からの情報で得られた事前期待値との比較になる。従って事前に旅行者の希望や嗜好をできる限り把握しておくことが望ましい。

旅行後は「日本に行ってこんなにすばらしい体験ができた」ことを親しい人に報告して仕上げとなる。そのタイミングで旅行会社や買い物をしたショップからお礼と同時に、今回の旅行を楽しまれたあなたの選択は本当に正しかったという内容のレターが届けばハピーエンドである。

以上のプロセスが旅行者の満足度を満たした瞬間から、ネットも含めた口コミ行動が開始される。人間は自分で納得し、そのことを他人から賞賛されたときに満足度の感情がクライマックスに達する。同時にリピーターになってくれる可能性が飛躍的に高くなるはずだ。

観光集客はまさに日本国をあげてのマーケティング活動である。単なるツアー商品の販売ではない。事前に日本のすばらしさをイメージしていただき、胸がときめいた見込み顧客を集客していく経験価値マーケティングが中核となる。いずれにしてもその成否の鍵は外国人観光客をもてなす側、すなわち私達日本人の意識と行動に委ねられていると言えよう。

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