民営化企業の年金問題を見る視点

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  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 田代 大助

日本航空(JAL)が経営再建問題に揺れている。注目ポイントの一つは、利益や資本に対して過大な規模に膨らんだ年金債務の処理の行方だ。先般、日本政策投資銀行によるつなぎ融資が実行される見通しとなったが、OBの年金削減問題については未だ決着を見ていない。同社の株主持分に対する退職給付債務の割合(2008年度末)は約4.6倍(=8,000億円/1,750億円)となっており、同業社の全日空の約0.8倍(=2,700億円/3,220億円)と比べても突出している。また、退職給付債務に係る未認識債務が約3,300億円ある。現在、未認識債務に関して、日本の会計基準では一定期間に亘って償却することが許容されているが、国際会計基準では即時償却する方向で議論が進められている。もしそれが適用された場合、JALは表面的にも債務超過に陥る可能性が高い。


なぜ、JALの年金債務がこんなに大きくなったのかと言えば、平均支給月額が約25万円、厚生年金も合わせると約40万円と言われる高額な給付水準に一因がある。高い給付水準の理由としては、危険を伴う職務に就いている運航乗務員や旅客乗務員に対する保険金としての給与、そしてそれに基づく年金給付という意味合いがあると見られる。また、JALは1987年に完全民営化するまでは半官半民の特殊会社であり、同社社員は共済年金には加入していなかったものの、公務員と同様に手厚い福利厚生を受けてきたという事情も大きい。かつて恩給制度として公務員を優遇してきた名残りが、結果的にJALの年金水準にも反映されていると考えられる。


これまで民営化に伴って年金負担の大きさが露呈された例としては、旧三公企体(現NTT、JT、JR)のケースが思い起こされる。三共済(NTT共済、JT共済、JR共済)は、民営化して約10年後の1997年に厚生年金に統合された際、共済時代に給付が確定した(物価スライド・再評価部分を除く)部分の給付現価相当額を厚生年金に移管することが求められた。この必要移管額は当時の予定利率5.5%が割引率に使用され、その後の金利水準から考えると本来必要な移管水準を実質的に大きく下回る負担に止まったと見てよい。それでも、必要移管額に足る資産が残っていなかったため、JTおよびJR共済の不足分はJT本社ならびにJR各社と旧国鉄清算事業団が負担することとなった。この清算事業団の負担分はその後、(独)鉄道建設・運輸整備支援機構に引継がれ、2007年2月に完済されている。この完済過程では多額の公的資金が投入されおり、相当の国民負担によって処理が進められたことになる。加えて、既に成熟度が著しく高まっていたJR・JT両共済については、物価スライド・再評価など世代間扶養部分を厚生年金など他の被用者年金制度から財政支援を仰ぐ形で処理が決まった。これまた、形を変えた国民負担によって処理がなされたといえるだろう。なお、共済制度が始まる前の旧恩給部分に係る追加費用についても、国鉄分にはやはり一部に公的資金が充当され、NTT及びJTは自社負担での処理が決まったが、これが現在の退職給付債務水準の重さに繋がっていることも見逃せない。


以上の事例は、旧国営事業に従事する職員に対して、手厚い給付設計であった戦前からの恩給制度、そして高度成長を前提に設計された福利厚生制度のツケが徐々に顕在化し、それが最終的に国民負担として付回されるという典型的な姿を映し出している。民営化に付きまとう特有な問題といえそうだが、重要な点は、民営化実行に当たっては、年金のような長期に亘る負担を国(国民)、従業員、民営化後の株主の間でどう分担するのか、あるいはどう分担すべきなのか、という問題が常に生じ易いということだ。


年金記録問題の絡みで廃案となったが、数年前から共済年金と厚生年金という被用者年金を一元化する方向性が議論されている。しかし、年金扶養比率で見た年金制度の成熟度は、共済年金が厚生年金よりも高く、一元化により将来的な厚生年金被保険者さらには国民全体へ負担が移転される事態も想定される。上記の事例はいずれも、旧国営事業職員が平均的な民間企業の従業員に比べて高待遇を受け、その処遇制度の持続が困難になったことを背景としている。JALの年金問題勃発は被用者年金一元化の妥当性について考えるべき点が少なくないことを示唆している。勿論、「民営化」という視点でいえば、昨今、報道を賑わせている郵政民営化の見直し問題においても同様だ。年金問題は今後の民営化見直しの重要ポイントとして注目すべきだろう。


JALの企業年金問題勃発は、単に一企業の問題のみに止まらず、国民全体の負担の問題として捉えることが重要と教えてくれる。

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