退職給付会計における割引率の設定方法はどうなるのか?

~国際会計基準の今後の方向性を踏まえて~

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2010年3月期の決算から退職給付会計における割引率の設定方法が見直される。この見直しは、EUによる会計基準の同等性評価に関して、2005年7月に欧州証券規制当局委員会から補正措置が提案されたことによるものである。


具体的には、「5年以内の一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる」という基準が、「期末における債券の利回りを用いる」という基準に変更される。


従来は、平均残存勤務期間に対応する割引率として、10年国債及び20年国債の退職給付債務算定時点における直近の応募者利回りを按分計算し、その結果を一定の刻み幅で端数処理した値を採用する企業が多かった。


これに対して、新しい会計基準の適用に関しては、従来の考え方を延長して「3月に入札結果が公表された国債の応募者利回りから同様に按分計算した利回り」を割引率として設定する企業と、期末時点という考えに重きをおいて、日本証券業協会から公表されている「格付けマトリクス」の3月末におけるダブルA格相当の社債利回りを割引率として設定する企業に二分される観がある。


こうした動きを、国際会計基準の従業員給付(IAS19)の検討状況の中で捉えてみる。IAS19は3段階での改正が予定されていた。まず、その第1弾として、割引率を「優良社債の利回りに基づいて設定すること(つまり、国債の利回りに基づいて設定しないこと)」が公開草案として提案されていた。


これは昨年の世界金融危機により社債と国債の利回りの差が拡大したことにより、仮に同じ退職給付制度で同じ対象人員であったとしても、割引率の設定根拠によって退職給付債務に大幅な乖離が発生し、財務諸表の比較可能性に支障を来たすことが原因で提案されたものであった。


結果的には、この提案はアジア・太平洋地域及び新興市場国からの不支持により取り下げられ、従前の基準が引き続き適用されることとなった。しかし、今回の議論により、IAS19において割引率が国債の利回りを用いて設定されるのは、十分な厚みのある優良社債の市場が存在しない場合であることが改めて確認された。


更にその先の第3弾目の改正としては、拠出ベース約定という給付の型に限定されてはいるが、各企業の信用リスクを織り込んだ割引率の設定も検討課題とされている。


こうした基準の見直し等により、割引率の設定根拠が「国債」⇒「優良社債」⇒「自社の社債」のような流れとなることも想定され、そうした場合には、その都度、退職給付債務が増減することとなる。


足元の2010年3月期の決算に適用する割引率の設定方法についても、こうした大きな流れを念頭に置いて、その検討を行う必要がある。


しかしながら、その一方では第1弾の公開草案が取り下げられた理由の一つに、「退職給付債務を算定する際の割引率として優良社債の利回りが最も適しているものだという結論に達していないこと」が挙げられており、先々は非常に不透明な状況であるともいえる。


こうした不透明な状況の中で、退職給付債務受託計算サービスを提供する者として考えるのは、各企業は国際会計基準の検討状況を注視するとともに、割引率を変更した場合の影響額を自社内で検証できるような仕組みを、急いで取り入れる必要があるということである。

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