2011年03月02日
最近MBOが注目を浴びている。MBO(Management Buy-Out)とは、経営陣による自社の買収をいう。経営陣が自ら自社の株式を買い集めることで非上場化の道を選ぶことである。2009年ごろから増え始め、今年に入ってからは、イマージュホールディングス、エノテカ、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、アートコーポレーションなど相次いでいる。
MBOを選択する理由として最も多いのは、経営の自由度を高めるためといった「経営改革」をあげている会社が多いが、実利の点では、内部統制の強化や近い将来導入される国際会計基準(IFRS)への対応による上場コストの上昇が少なからず影響を受けているのは否めない。 IFRSの導入コストでは「数億円」かかるとの調査もある。「そこまでしても」という思いは多くの経営者も持っていることであろう。
市場における資金調達も風向きが大きく変わってきている。以前であれば、新株発行による資金調達である「エクイティファイナンス」は、その会社の成長する証しとして、「ファイナンス=買い」となって株価は上昇したものである。最近では「ファイナンス=売り」となってきている。当然、成長分野への投資のための資金調達であろうが、増資による利益の大幅な希薄化や需給関係の悪化から、株価が大きく崩れる企業も多い。
このようにマーケットからの調達も株価の下落要因とされ、超低金利が続くわが国においては、資金調達面では、上場のメリットよりもマイナス面の方が強調され過ぎている。
上場メリットとしては、(1)資金調達の多様化、(2)優秀な人材の確保、(3)知名度の向上、(4)上場会社としての社会的信用、(5)創業者利益の獲得などがあげられる。しなしながら、(1)については前述のとおりマイナス面が強い。(2)についても就職氷河期と言われているように、現在は苦労もさほど大きくない。(4)も上場会社といえども不祥事や倒産とは無縁ではない。(5)は別な方法(M&Aや企業譲渡など)によりメリットは十分に得られる。足元の経済環境において上場維持のメリットは少ない。(3)の知名度の向上の目的が達成できれば十分で、目的さえ達成できれば、非上場化を考えるのは当然ともいえる。
新規公開が続いているが、経営者の中には、あえて上場を選択しないという道をとる場合も増えてくるのではないか。
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