2010年12月01日
最近の株式市場の低迷や親子上場の課題などから、株式公開買付け(TOB)が活発に行われてきている。TOBはM&Aのひとつの手法として幅広く認識されてきたといえる。TOBにおいて注目されるのは、市場株価に対してどの程度のプレミアムを上乗せしたのかという点である。一般には、市場株価と買付価格の差がプレミアムといわれている。TOBに限らず合併や株式交換においてもプレミアムが考えられる。
ではなぜプレミアムが必要となるのであろうか。まず現象面から考えると、TOBでは一般の投資家から買付けるのであるから、市場株価に対してプレミアムが付いてなければあえて売却しようとは思わないということである。
買収側からすればプレミアムを付す合理的な理由はふたつ考えられる。ひとつ目は時間を買うということである。「Time is Money」とよくいわれるが、ビジネスの世界においては、いかに早く事業展開ができるかという点が重要である。そのために現在の価値(市場株価)に時間というプレミアムを乗せるのである。もうひとつは買収する会社とのシナジー(相乗効果)を生み出すためである。買収する会社の企業価値をいち早く高めるためには、その会社を完全にコントロールしなければならない。少数の株主がいることが迅速な事業改革の妨げになることもある。その支配権を確立するためのプレミアムが「支配権プレミアム」というものである。
買収側としてプレミアムをいかに測定するのかがM&Aにおけるポイントのひとつとなる。一番目の時間価値というものは測定がきわめて困難であるから、二番目のシナジー価値により買収価格を決めることが多くなる。シナジー効果の源泉を端的にいうと「将来の売上をより増やすこと」「将来のコストをより減らすこと」につきる。特にコストシナジーは事前に測定しやすく短期間のうちに実現できる可能性が高いものである。一方、売上シナジーは測定が難しく実現には比較的長期間が必要である。
M&Aを実行するには、プレミアムの水準をはっきりさせるための、事前のシナジー測定は欠かせないものである。
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