株式対価M&A - 株式交付制度の戦略的活用 -

株式交付制度開始1年経過後の活用状況を踏まえて

RSS
  • コンサルティング第一部 主席コンサルタント 弘中 秀之

サマリー

◆自社株式を対価としたM&Aスキームのひとつとなる株式交付制度が2021年3月の会社法改正により施行され1年が経過した。自社株式を用いたM&Aは、キャッシュアウトを伴わないため、資金に余裕はないが自社外の経営資源や技術を積極的に取り込みたい企業にとっての経営戦略の打ち手となる。

◆株式交付は、株式取得を目指す対象会社を子会社化する場合にのみ利用できる制度である。対象会社の子会社化を伴わない株式の一部取得や既に子会社となっている会社の株式の追加取得には利用できない。また、株式を取得(買収)する会社においては、株主総会の特別決議(簡易株式交付の場合を除く)が必要となるほか、有価証券届出書関連の手続なども必要となる。

◆株式交付制度スタート後1年間における上場会社による株式交付制度の活用状況を適時開示資料より調査したところ、8件を確認することができた。買収対象会社はすべて未上場会社であり、買収する側(上場会社側)の株主総会が不要な簡易株式交付が7件という結果であった。

◆株式交付制度は、「未上場会社の過半数の株式を自社株対価で取得したい」ケースにおいて簡易株式交付になる場合に有効活用しやすい制度と言える。今後は、「上場会社の過半数の株式を特定の株主から自社株対価で取得したい」という株式公開買付(TOB)を伴うような大がかりな事例で活用されることも考えられる。

◆株式交付制度が創設されたが、あらゆるケースで自社株式を用いたM&Aが可能となった訳ではない。しかし、M&Aを検討する際に、完全子会社化までは考えていないケースや、既存の株主が何らかの理由で買収後も残るケースは多くあると思われる。また、完全子会社化を含め、自社株式及び現金を使った混合対価で買収したいケースもあると思われる。このようなケースで対象会社株主に株式を対価とすることを受け入れてもらえるならば、株式交付は有効な手段となり得る。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス