はじめに
大和総研では証券系シンクタンクとして日々企業経営をよりよくするにはどうすれば良いかを研究している。その研究をコンサルティングの現場で発揮すべく企業の経営課題解決のお手伝いをさせて頂いている。解決策は企業ごとにオーダーメイドで、その内容もさまざまである。例えば、中期経営計画の策定支援、コーポレート・ガバナンス体制の見直し支援、健康経営の推進支援、人事制度の改定支援とその領域は多岐にわたる。私の所属するチームでは、組織再編の検討・実行支援という解決策を活用した課題解決を得意としている。


効果の見える組織再編と効果の見えにくい組織再編
組織再編といっても、資本関係のない企業同士の再編であるグループ外再編もあれば、グループ内で完結する組織再編もある。グループ外再編には経営統合や買収、事業を切り出して売却する分割等のM&Aがあり、その再編の類型も経済的効果もさまざまである。グループ外再編の特徴は企業の業績に非連続的な変化をもたらすことにある。たとえば、同程度の売上規模の企業同士が合併すれば売上高は2倍になる。起業後間もないベンチャー企業やテクノロジーの革新、法改正等により新しく創造された市場でもなければ、成熟産業において自社の経営努力のみで売上高を2倍にするのは至難の業であろう。この非連続的な変化がグループ外再編の特徴の一つであるといえる。
一方、グループ内再編では非連続的な業績の変化は通常あまり期待できない。グループ内での合併により重複部門を統合し効率化をねらったり、逆に事業を分割し権限を大きく委譲することで迅速な意思決定をねらったりと、利益を出しやすい体制や事業執行をしやすい体制を整備するのが主眼となる。組織再編の効果がすぐに発現するものではない、というのがグループ内再編の特徴である。グループ内再編は効果が実感しにくいという声を聞くことがあるが、それが即ちグループ内再編は効果が薄い、というわけではない。グループ内再編の効果を大いに実感するには実はコツがいるのだ。


効果が見えにくい3つの理由
まずは、なぜ効果が実感しにくいかを整理しておこう。効果が実感できない理由は次のように整理できる。


1.解決すべき課題を定義できていなかった
2.組織再編という解決策が課題解決に適していなかった
3.効果を測定する仕組みを用意していなかった


一つ目は解決すべき課題を曖昧にしたまま組織再編を実行するケースである。たとえば、持株会社体制への移行というグループ内再編で考えてみる。意思決定の迅速化が必要といった課題があるとする。このとき、どの階層での意思決定の迅速化が必要なのか、というところまで掘り下げないといけない。事業部レベルでの意思決定の迅速化が課題なのであれば、持株会社体制というのはあまり有効な手段にはならないだろう。そうではなく、複数事業部門を持つ企業がどの事業分野に注力するか、という判断をする場合において各事業を担当する取締役がその事業の利益代表となり議論が長期化しがちだというときに、持株会社体制に移行し、事業執行を担う事業会社と投資判断を担う持株会社に分割する。利益代表となる取締役を持株会社の取締役から解く。そうすることで持株会社の取締役は事業環境、競合の動向等を冷静に分析して企業価値を高める判断をスピーディにできるようにすることができる。どの階層の意思決定のスピードに問題があるかまで定義しなければ、ねらった効果を得られない。


二つ目は、課題解決策として選択した組織再編が有効か、ということである。組織設計の仕方にもよるが、コストを下げたいのに分社化して持株会社体制になっては管理部門が重複し逆に非効率となってしまう可能性がある。組織再編はそのスキームも含めてそれぞれ特徴がある。その特徴を活かす組織再編を選択しないといけない。


三つ目は、効果測定の仕組みの整備である。ねらった効果に対してその効果が組織再編後に実際に現れているかどうかを、KPIを用いて測定する。グループ内再編は効果が見えにくいためKPIにも工夫を凝らす必要があるだろう。


グループ内再編の効果を実感しにくい理由を三つに整理した。効果を実感するコツというのはこの裏返しである。解決すべき課題を定義し、課題解決にふさわしい組織再編スキームを選択し、ねらった効果が発現しているのかをKPIで測定する。これらに注意すれば、グループ内再編であってもその効果を大いに実感できるだろう。


グループ内再編の活用事例
組織再編をうまく活用したと筆者が考える事例を2つ紹介する。伊藤忠商事のカンパニー制移行の事例と、リクルートの持株会社体制移行の事例である。両事例とも課題を明確に定義し、その課題に対して適した組織再編を行った事例であると考える。


なお、各事例は公表されているインタビュー記事等の情報から抽出したポイントを筆者がまとめ、考察した内容を加筆したものである。

グループ内再編の活用事例1

(出所:「伊藤忠商事(2)~チャレンジせよ、現状維持は脱落を意味する」、日経BPネット、2005年12月26日掲載記事、2017年6月23日閲覧より筆者作成、加筆)

グループ内再編の活用事例2

(出所:「第3の創業でグローバルナンバーワンへ 継承と変革の経営<2> リクルートホールディングス 代表取締役社長兼CEO 峰岸 真澄」、ダイヤモンドクォータリー、2017年4月14日掲載記事、2017年6月23日閲覧より筆者作成、加筆)


さいごに
組織再編の実施が決まり実働が始まると、どうしても組織再編を「どうにかやりきる」ことが目的化してしまいがちである。しかし、組織再編を活用して経営課題を解決することが目的であり、組織再編はその手段である。担当者はそのことを常に意識し、組織再編の効果を最大化するための議論を継続していくことが重要である。

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