海外M&Aに活路はあるか

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  • 間所 健司
過去にない円高を背景として日本企業による海外企業のM&Aが加速している。巨大グローバル企業にとどまらず、中堅企業や内需型企業も加わり、その規模を拡大している。

その要因として、ひとつには、記録的な円高が続いていること。また、財務内容は悪くなく、低金利で資金調達がまだ可能であること。三つ目として、EUの信用不安の直接的な影響がまだ軽微であることなどがあげられる。

加えて、長期化するデフレや人口減少などといった、わが国経済の長期的な低迷・低成長に対する企業側の危機感も大きく影響している。特に内需型企業においては、内需に依存する収益体質から、市場を海外に求めることによって収益の多様化を進めることで、成長戦略を確立することにある。

最近、特に動きが活発なのは酒類・飲料メーカーである。アサヒグループホールディングスは、今年、オーストラリアのピー・アンド・エヌ・ビバレッジズ・オーストラリア社に続き、ニュージーランドのフレイバード・ビバレッジズ・グループ・ホールディングス社を買収するなどオセアニア地域で積極的なM&Aを仕掛けている。キリンホールディングスやサントリーホールディングスも東南アジアでM&Aを積極化させている。

アジア地域は、人口の増加と生活水準の向上による高い成長が見込めること、また、日本から近く、時差もほとんどないことから、経営上のコントロールが比較的しやすい点もあって、投資するメリットは大きい。

さらに、政府は円高対策のひとつとして、国際協力銀行が3メガバンクに海外企業買収のための3兆円を超える融資枠を設定した。海外企業のM&Aを後押しすることで、円高の恩恵を受けることを狙っている。政府の支援もあり、今後とも海外M&Aに拍車がかかることは確かである。

一方で、海外M&Aでは、過去においてバブル期などに高値づかみで失敗したケースもあるため、買収にあたっては十分な調査(デューデリジェンス)が必要となろう。特にアジア地域においては欧米と異なりコンプライアンス体制などの制度面に注意が必要である。

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