2011年11月08日
過去にない円高を背景として日本企業による海外企業のM&Aが加速している。巨大グローバル企業にとどまらず、中堅企業や内需型企業も加わり、その規模を拡大している。
その要因として、ひとつには、記録的な円高が続いていること。また、財務内容は悪くなく、低金利で資金調達がまだ可能であること。三つ目として、EUの信用不安の直接的な影響がまだ軽微であることなどがあげられる。
加えて、長期化するデフレや人口減少などといった、わが国経済の長期的な低迷・低成長に対する企業側の危機感も大きく影響している。特に内需型企業においては、内需に依存する収益体質から、市場を海外に求めることによって収益の多様化を進めることで、成長戦略を確立することにある。
最近、特に動きが活発なのは酒類・飲料メーカーである。アサヒグループホールディングスは、今年、オーストラリアのピー・アンド・エヌ・ビバレッジズ・オーストラリア社に続き、ニュージーランドのフレイバード・ビバレッジズ・グループ・ホールディングス社を買収するなどオセアニア地域で積極的なM&Aを仕掛けている。キリンホールディングスやサントリーホールディングスも東南アジアでM&Aを積極化させている。
アジア地域は、人口の増加と生活水準の向上による高い成長が見込めること、また、日本から近く、時差もほとんどないことから、経営上のコントロールが比較的しやすい点もあって、投資するメリットは大きい。
さらに、政府は円高対策のひとつとして、国際協力銀行が3メガバンクに海外企業買収のための3兆円を超える融資枠を設定した。海外企業のM&Aを後押しすることで、円高の恩恵を受けることを狙っている。政府の支援もあり、今後とも海外M&Aに拍車がかかることは確かである。
一方で、海外M&Aでは、過去においてバブル期などに高値づかみで失敗したケースもあるため、買収にあたっては十分な調査(デューデリジェンス)が必要となろう。特にアジア地域においては欧米と異なりコンプライアンス体制などの制度面に注意が必要である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
データから学ぶTOB(株式公開買付け)
TOBの拡大が示す、企業戦略の新局面
2025年07月11日
-
日本企業によるM&Aの動向(2023年版)
2024年05月31日
-
日本企業によるM&Aの動向
2023年05月25日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日

