DCF方式の光と影(買収価格算定再考)

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  • 間所 健司

上場会社の株式交換や合併などのプレスリリースをみると、M&Aにおける買収価値を算定する方法がわかるが、DCF方式が定番化してきているようである。
DCF方式とは、Discounted Cash Flow方式の略で、将来の(予想)キャッシュ・フローを一定の割引率で現在価値に換算する算定方法である。DCF方式ではいくつかの仮説に基づいて価値を算定するため、その仮説(バリュー・ドライバー)の設定が重要なファクターとなり、その大小で算定結果は大きく変わる。


DCF法の主なバリュー・ドライバーは、
(1)将来CF(キャッシュ・フロー)
(2)割引率(投資収益率)
(3)継続価値(永続価値ともいう)および継続価値のCF成長率
の3つである。


まず、将来CFを推計するためには、評価対象会社の収益分析、コスト分析にとどまらず、競争力、成長力、投資の見通しなどをはじめ、業界動向などのマクロ的分析からの対比も必要である。これらの多面的な調査・分析により、いかに適正かつ実現可能性がある将来CFを予想するかがポイントである。


また、的確な割引率の選定も重要である。一般的には負債コストと株主資本コストの加重平均(WACC:Weighted Average Cost of Capital)を用いるケースが多い。負債コストは税引後の利子率を用い、株主資本コストはCAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)を用いて算出する。バブル崩壊後、指標となる日経平均株価、TOPIXなどの株式の投資収益率が低下してきているため、そのまま適用すると実態以上に対象会社の価値が過大評価となってしまう。よってどのような割引率を設定するかは、慎重な検討を要する。


さらに、将来CFの予想期間が短ければ、(DCF方式による)算定価値に占める継続価値の割合がその分高くなるが、一般的にCFの予想は将来になればなるほど精度が低下するので注意が必要である。継続価値の計算に成長率(プラス成長)を加味すれば、その価値は上がることになる。マイナス経済成長、少子高齢化が進むマクロ環境下でCF成長率をどう見るかも重要といえる。DCF方式では、継続価値の割合が高いと将来の不確定要素によるばらつきが増すため、経験豊富な専門家でも継続価値および継続価値のCF成長率には頭を悩ませるものである。


上述の通り、DCF方式は必ずしもオールマイティーな算定方法ではない。そこでDCF方式のチェック機能を果たしてくれるのが、マルチプル方式(類似会社比較方式)である。両方式の結果が大きく乖離した場合、「将来CFの推計は適正だったか?」「割引率は?」「成長率をどうみるか?」など再検証が可能である。両方式とも長所・短所があるため、相互補完的に利用することを心掛けて欲しい。

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