ソーシャルメディア活用におけるリスク管理

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1.はじめに


近年、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのソーシャルメディアの普及が目覚ましい。WEB上での利用はもちろんのこと、テレビでもリアルタイムで視聴者コメントを画面上で紹介しているのを見かけるようになった。ソーシャルメディアとして、良く知られているのは、mixi、GREE、Twitter、Facebookなどである。


ソーシャルメディアの利用について総務省の調査をみると、約43%の回答者がこれを利用しており、このうち複数利用している人は25%、利用経験有りも10%となっている。

図1.ソーシャルメディアの現在の利用数、利用経験

年代別の利用では、10代が70%を超えているのに対し、60代以上では20%程度と利用率に世代間の差があった。若年層ほど複数利用者が多いという傾向であった。

図2.ソーシャルメディアの現在の利用数、利用経験(年代別)

これらソーシャルメディアが普及した背景には、2000年以降の情報通信技術(ICT)に関するインフラ整備の進展、携帯電話からのインターネット利用が普及したこと、スマートフォンやタブレットPCなどネットへのアクセスの選択肢が広がったこと、などがある。


ソーシャルメディアは、「つながりを持てること」「気軽に利用できること」などから拡大を続けているが、その反面、このメディア上での失言や情報漏洩に端を発するいわゆる「ネット炎上」は無視できないリスクとなっている。そして、この「ネット炎上」は、単にそのメディアに書き込んだ個人だけの問題ではなく、その個人の所属する企業や組織にとっても大きなリスクとなっていることを認識しておく必要がある。また、「ネット炎上」は国内だけにとどまらず海外にも広がる可能性を秘めており、企業活動がグローバル化している中、企業としてもリスク管理上の課題として対策に取組む必要もでてきている。


現に、「ネット炎上」のリスクを軽減するために、ソーシャルメディア活用についての社内ルール作りや役職員向けの教育・研修に力を入れている企業や組織も増えてきている。


本稿では、過去の主なネット炎上事例を概観し、企業や組織としてソーシャルメディアに対してどのようにリスク管理をしていくべきか事例を交えながら解説する。


2.これまでのネット炎上事例


ネット炎上の事例は、様々なケースがり、その原因も従業員個人の投稿から発展したものや、企業の取り組みに起因するものまで多岐にわたる。ここでは、いくつか代表的な事例をみてみたい。


まず、良く知られている事例として「失言・暴言」のケースがある。これは、従業員個人が日常業務の中で体験したことを他愛もなく投稿した際に、その内容に不適切な部分が含まれていたために多くの批判を受け、炎上したというものである。図3がこのケースだが、投稿者が一つはアルバイト、もう一つは研修を受けたばかりの新入社員と、ソーシャルメディアには慣れ親しんでいるものの、そのリスクには無防備な世代であった。


いずれのケースも、お詫び文を公開することで事態は収束した。

図3.「失言・暴言」のケース

次に知られている事例に「悪のり」のケースがある。これも従業員個人の行動によるもので、「世間に注目されたい」「面白がってもらいたい」といった動機からの投稿に「不謹慎」「節度を欠く」内容が盛り込まれていたために、炎上したものである。図4がこのケースだが、前述のケースと比べて、個人が意図的に行っていたことに問題がある。


C社はお詫び文の掲載を行い、D社では同社のCEO自らが動画でお詫びのメッセージを発信し、収束に向かった。

図4.「悪のり」のケース

(*1)通常提供していない商品を作成し動画で紹介したため、「不衛生だ」「食品を粗末に扱っている」との批判が殺到した。

最後に、企業自身のソーシャルメディアへの取り組みが、「コミュニティーの慣習や規則を軽視した」ものとみなされ、批判を浴びて炎上したという事例を紹介する。


このケースは図5の通りだが、企業やその組織そのものが批判の対象となるため、影響は大きい。

図5.「コミュニティーの慣習や規則を軽視した」ケース
(*2)ネットユーザーの間で共有されていたキャラクターを、一企業であるE社が商標登録をしようとしたため、批判が広がった。
(*3)キャンペーンにツイッターを利用していた同社だが、宣伝メッセージがユーザーに自動的に送られ、迷惑メールと受け取られ、批判が広がった。

E社はこのキャラクターの商標登録出願を取り下げることになった。F社は批判を受けて早期に対応、お詫び文も対象となったサービスの停止から3時間あまりで同社Webサイトに掲載された。その結果批判の声は早い段階で収まり、称賛の声があがるほどになった。

以上、ネット炎上事例を原因別に概観したが、いずれのケースも何気ない投稿やソーシャルメディアへの取り組みが多くの批判を招くという事態に発展し、最後はお詫び文の掲載で幕を閉じるという形になっている。これらのケースからソーシャルメディアを利活用する上での教訓は、SNSに慣れた若年層を中心に企業や組織においてSNSに潜むリスクを認識させることと、そして経営者や組織のトップ自らもリスクが発生した場合に、早期対応につとめることである。


3.SNS時代に企業や組織がとるべきリスク管理対策


前述のネット炎上事例を踏まえ、SNS時代にどのようなリスク管理をすればよいのか、5つの対策について解説する。


(1)役職員向けのネット・メール利用に関する基本方針の整備


企業や組織の役職員においては、ソーシャルメディアの利活用について注意喚起する前に、ネットやメールの利用について今一度、一定のルールを確認しておく必要があろう。日常業務でのネットやメールの利用は一般化しているが、これらの利用環境は業務遂行のために企業や組織が役職員に対し与えたものである。過度な私的利用は注意されるべきである。従って、社内PCでのネットやメールの過度な私的利用は控えるようルールや通知文を出したり、社内PCでのネットやメールの利用はモニタリングする可能性がある旨など事前に周知する必要があろう。まずは、基本的な対策を講じておくことがリスク管理として重要である。


(2)ソーシャルメディアポリシーの策定


次は「ソーシャルメディアポリシーの策定」である。これは、企業や組織としてソーシャルメディアにどう対応していくのかを明確にしたものである。盛り込むべきポイントとしては、「情報発信者としての立場や責任を明確にすること」「著作権、個人情報、機密情報の保護など、コンプライアンスの徹底を図ること」「節度や良識を持ったコミュニケーションを図ること」などがある。HP上で「ソーシャルメディアポリシー」を公開している企業があるので幾つか紹介しよう。

(例1)住宅メーカーG社(例2)食品メーカーH社(例3)化学I社

(3)役職員向けのソーシャルメディア利活用に関する教育・研修


3つ目の対策は、役職員向けの教育・研修の実施である。まずは、「ソーシャルメディアポリシー」に盛り込まれた会社や組織としてのルールを周知・徹底することである。具体策としては、ソーシャルメディアポリシーに関するポスターや小冊子などを作成して社内に掲示したり配布する、ソーシャルメディアポリシーに関してeラーニングを実施するなどがある。その際に留意すべき点は、読み手側が理解しやすいようにポリシーだけでなく、具体的な事例を盛り込むことである。そうすることで、実践の場でポリシーが活かされるからである。また、研修としては若年層を中心にコンプライアンス研修や階層別研修などで、ソーシャルメディアポリシーに関わる事例を取り上げ、繰り返し啓発活動を行うことが重要である。


(4)公式アカウントの公開


4つ目の対策は、社外とのコミュニケーション窓口となる公式アカウントを公開することである。これには2つの意義がある。1つはなりすましに対する防衛策であり、もう1つはネット炎上した際における謝罪や状況説明・対応状況についての情報発信窓口としての意義である。ソーシャルメディアの公式アカウントを明らかにしておくことで、企業や組織としての明確な対応を示すことが出来るからである。


(5)モニタリングの実施による早期発見


最後の対策は、モニタリングの実施である。SNSにおけるネット炎上は突然起こるものではなく、徐々に広がっていくのが一般的である。従って、初期段階でネット炎上の火種を見つければ、社内調査や次への対策準備が可能となる。よく使われている電子掲示板やツイッターの書き込みなどから情報収集していく必要がある。このモニタリングについては、自社内の専門部署でモニタリングする企業もあれば、外部のモニタリング専門業者に委託している企業もある。いずれの場合もコストが掛かるが、ネット炎上が発生した場合に企業や組織が受ける影響を考えて対応を決めておく必要があろう。


4.最後に


昨今のSNSの発展は、個人をはじめとして企業や組織の情報発信や新たなコミュニケーションに寄与した側面がある一方で、ネット炎上というリスクをもたらすことにもなった。SNSは、個人にとっても企業にとっても有効なメディアであることは誰しも認めるところである。但し、その扱い方や対応を間違えると大きな問題となるわけである。


SNSの持つ特性とリスクをよく認識してリスク管理対策を講じ、適切に活用していくことが今求められている。

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