2011年12月14日
平成24年度の税制改正大綱が決定し、今後「税と社会保障の一体改革」についての本格的な議論が始まる。その中で短時間労働者への社会保険適用について、特に医療の面について述べる。
総務省の労働力調査(詳細集計)によると、2008年以降、正規の職員・従業員は減少傾向にある。その一方非正規労働者数は概ね増加傾向であり、2010年には労働者全体に占める非正規労働者の比率は最も高くなっている(2010年34.3%)。(出所:総務省「労働力調査」)
現在、短時間労働者への社会保険適用(年金・健康保険)は、1日又は1週間の所定労働時間、1カ月の所定労働日数がそれぞれ正規の職員のおおむね4分の3以上である者に適用するよう定められているが、この対象範囲を引き下げるように検討されている。今のところ週労働時間20時間以上の者とするという案が有力である。具体的にどのような者がその対象になっているかというと、家計を助けるために働きにでているサラリーマンの配偶者(第3号被保険者)や自営業者の配偶者および学生等である。
この問題について2つの留意点を指摘したい。
第一に、この問題は企業により影響が大きく変わるということである。業種により短時間労働者の比率が大きく異なる。短時間労働者の比率が低いといわれているのは、「情報通信業(1.9%)」、「建設業(3.0%)」、「製造業(5.8%)」等であるのに対し、「宿泊業・飲食サービス業(31.4%)」、「卸売業・小売業(19.3%)」等の比率が高い。(出所:総務省「労働力調査(平成22年・年平均))
具体的な例として、企業規模の区分では大企業に分類される3社を比較してみる。製造業A社において、有価証券報告書における正社員に対する臨時雇用社員(8時間換算)の人数比を算出すると、0.36倍となる。また、小売業B社をみると、その比率は2.57倍と算出される。同じ小売業であっても、小売業C社の場合にはその比率は1.07倍と算出することができ、同じ業種でも、その比率は異なっているため、適用拡大に対する影響も異なってくる。
第一に、この問題は企業により影響が大きく変わるということである。業種により短時間労働者の比率が大きく異なる。短時間労働者の比率が低いといわれているのは、「情報通信業(1.9%)」、「建設業(3.0%)」、「製造業(5.8%)」等であるのに対し、「宿泊業・飲食サービス業(31.4%)」、「卸売業・小売業(19.3%)」等の比率が高い。(出所:総務省「労働力調査(平成22年・年平均))
具体的な例として、企業規模の区分では大企業に分類される3社を比較してみる。製造業A社において、有価証券報告書における正社員に対する臨時雇用社員(8時間換算)の人数比を算出すると、0.36倍となる。また、小売業B社をみると、その比率は2.57倍と算出される。同じ小売業であっても、小売業C社の場合にはその比率は1.07倍と算出することができ、同じ業種でも、その比率は異なっているため、適用拡大に対する影響も異なってくる。
第二番目として、企業にとって、短時間労働者の動向の予測がつかないことである。
健康保険の場合、適用拡大により新たに保険料の負担が生じることになるが、同時に被保険者として病院で受診できることになる。しかし、これまでも被扶養者として、特に保険料の負担もなく受診できた人にとっては、逆に負担が増えるだけという場合もある。またこれまでの健康保険が国保などの場合、適用拡大により負担する保険料が低下することもあり、そのメリットが大きい場合も考えられる。
保険料の負担以外にも、短時間労働者にとっては、被扶養者から被保険者となることについて、留意しておく点がある。組合管掌健康保険(健康保険組合)の場合には、加入者の医療費負担が多額となった際に、その負担を軽減する付加的な給付を行う等の他、人間ドック等の受診補助を行っている場合がある。短時間労働者が適用拡大後に、そのようなメリットのある健康保険組合に被保険者として加入するのか、被扶養者であった健康保険組合から抜けるのかというようなことが問題となってくる。短時間労働者への適用拡大となった場合、短時間労働者がその労働時間の調整を行うのか、逆に勤務時間を長くするのか、あるいは他の会社に移るのか等の何らかの動きが強まる可能性があるが、予測はつかない。
以上のように、企業側としても、従来の非正規労働者を活用していた経営は見直しをせまられることになるだろう。店員が不足して店舗運営に支障をきたす恐れはないか、将来の人員構成をいかにすべきか、コスト負担増はどの程度か、など検討すべき材料は多い。社会保障の適用拡大は健康保険組合だけの問題ではなく、全社的に取り組むべき課題といえよう。
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