「働き方改革」の行きづまりを打破するには

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  • コンサルティング企画部 主席コンサルタント 廣川 明子

「働き方改革」に関する課題を放置するリスクは日々報じられており、人材不足も相まって、企業における改革の機は熟した。規模の差こそあれ各社施策を打っている一方、行きづまりや改革疲れを耳にする。


突然だが、質問をさせていただきたい。以下のような状況で「働き方改革」は浸透するだろうか?

  • ある営業部では、長時間残業の者が多く離職率も高いが、売上高は抜群。営業部長は高い評価を得て執行役員に昇格している。
  • 生産性向上を掲げ、全社的な業務フロー改善を部署間連携で実施することを推進しているが、自部署の業務分掌に規定されない改善業務をだれもやりたがらない。
  • 現場の努力や改善では達成しがたいレベルの残業削減目標が示されるも、現場から上がった設備投資、人材配置の稟議申請はすべて却下。
  • 質・期限・コスト・売上高・利益率・長時間労働の抑制もすべて重要であるとされ、優先順位はつけられていない。
  • 過去に全社的な改革プロジェクトを立ち上げたものの未達に終わる。振り返りはなく、結果責任を問われることもなく、気がつけば自然消滅。

一つでも当てはまるならば、「働き方改革」プロジェクトを立ち上げて社内PRを派手に行ったとしても、研修やワークショップを開催しても、一過性の打ち上げ花火に終わり、成果を上げることも、企業文化にまで昇華させることも叶わないだろう。


社員にとっては、業務外の“イベント”よりも、業務で目の当たりにする矛盾した規定や指示、施策の数々、管理職がふと漏らした本音の方が強いインパクトを持つ。結局、「また本部が何か言ってる」「そのうち終わるでしょう」として、やり過ごされてしまう。


「働き方改革」は事業戦略から組織運営に至る大小様々な事柄、ヒトの思惑がひどく複雑に絡んだ、複雑な課題である。改革疲れや行き詰まりの根を解きほぐし、打開するヒントを3点ほど以下にご紹介したい。


1.社内のすべての事柄を調和させる


新たな「働かせ方」を示し、現場の社員にまつわるすべての事柄に矛盾がないかを解きほぐし、一つひとつ修正をしていく。例えば、経営陣以下の管理職の言動、規程、通達、業務マニュアル、暗黙のルール、本部からの指示事項、昇格・降格の判断などがあげられる。


同時に、矛盾した指示があった場合、何を最も優先するか、何を劣後させて良いか判断基準を示すことも欠かせない。「すべて重要」というのはたやすいが、社員には「すべてどうでもよい」ものとして受け止められてしまう。


2.人材マネジメントの矛盾点をなくす


1.とも重複するが、社員にとって人材マネジメントは直接的で極めて関心の高い仕組みであるため強調したい。ここで人材マネジメントとは、人事制度(等級、報酬、評価)のほか、異動・配置、退職、育成、ワークライフバランス施策、労務管理、要員構成、人件費管理など人の働き方や処遇に係るすべてを指す。


施策例では、例えば残業代が減ったとしても収入が減らないような報酬体系への移行、生産性向上を促す評価項目の追加、管理職の組織運営能力の向上などがあげられる。ただし、単独で行った時に既存制度と矛盾が生じる可能性があるため、労働法改正の動向もにらみながら、自社の新たな「働かせ方」や戦略と人材マネジメントが整合しているか再点検することは不可避となる。


3.全社を巻き込んで組織的に取り組む


昨今、「働き方改革」の主導権を人事部から「経営企画」や「社長直下のプロジェクト」に移す企業が増えつつある。働き方問題の真因が事業戦略から組織運営に至るまでの諸々が絡まっている以上、経営に寄り添い、全社を俯瞰し、組織を束ねるセクションが旗振り役となることが求められよう。


また、一過性のものとしないメッセージを打ち出すには、プロジェクトよりは専任部室を設けることがお勧めである。人員を割くことが難しければ、役員の管掌に明示したり、CHO(Chief Health Officerなど)などの呼称を置くだけでも効果はある。


おわりに


「働き方改革」は事業戦略から経営資源すべてに係る課題であるため、どの会社にも共通して効果がある特効薬は存在しない。組織に合わせた漢方薬が必要で、どれも地味で効果が出るまでには時間がかかる。改革に弾みをつけるためのクイックヒット(短期に出せる成果)を演出することも必要だが、目先の成果にこだわって消耗するのではなく、隅々まで心配りをして染み込ませるような、息の長い活動を目指したい。


ただ、もし成功したならば得られるものは大きい。働き方改革は、「組織を変える」「ヒトの行動を変化させる」さらには「企業文化を変える」ことに通じる。「組織もヒトも変わらない」悩みは多くの経営者がお持ちだ。改革を通じてこの手法を体得できたならば、事業戦略を実行する上で、将来最強の武器となろう。


本レポートは、2017年7月21日に開催したセミナー「働き方改革の再起動」の一部を引用しています。詳しいご説明をご希望の方は当社までお問い合わせください。お問い合わせ先(※お問い合わせフォームへ移動します)

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