高齢者再雇用と従業員モチベーションの両立を目指して

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  • コンサルティング第二部 主任コンサルタント 柳澤 大貴

 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」が平成25年4月1日施行になる。これに伴い多くの企業は現在その対応に追われている時期である。ここでは特に高年齢者の雇用確保に関する法律改正の背景を俯瞰しつつ、どのような方向性をもって今後の制度設計を行うべきかについて考察を行う。



中長期視点での制度構築が不可欠
高年齢者の雇用確保は厚生年金の支給開始年齢の段階的な引き上げに伴う措置である。現在、企業は65歳までの雇用を確保するため、[1]定年年齢の引き上げ、[2]継続雇用制度(再雇用・勤務延長)の導入、[3]定年の定めの廃止のいずれかの措置を導入する義務がある。これまでは[2]の継続雇用制度を導入する場合、労使協定により基準を定めることで希望者全員を対象としない制度とすることが可能であった。今回の法律改正の施行後は、企業は原則として希望者全員に対して60歳定年後、65歳までの5年間の雇用を確保しなければならない(厚生年金の支給開始年齢の引き上げに係る経過措置あり)。企業においては法律改正に対応した制度変更あるいは制度設計が直近の課題である。


対応策は目先の定年退職者に対応すればよいという性質のものではない。それ以上に重要なポイントは中長期の視点で人事戦略を再構築しなければならないことである。今の若年層や中堅層の従業員もやがてこの制度の対象になるという認識である。自社のボリュームゾーンの要員数を把握しつつ、長期の業績予測、適正労働分配率を意識した制度設計と採用・配置、賃金配分の運用を行わなければならない。


しかし、高年齢者の雇用確保により人件費負担が増えた結果、新卒採用数を抑制し、若年層や中堅層の昇給額を減少することになったのであれば、それは本末転倒である。現役世代従業員のモチベーションは低下し、企業業績は停滞する。そして高年齢者の雇用確保原資の維持が危うくなるという結末を迎えることも絵空事ではない。働き方についてもフルタイム勤務、パートタイム勤務などの選択肢を用意し、人件費の最適化を図る工夫も必要である。


このような視点に立つと、高年齢者だけを見て就業条件を整備する対応だけでは甚だ不十分である。高年齢者への配慮はもちろんであるが、それ以上に現役世代へのインパクトを重視する姿勢が求められる。可能な限りその企業の人事制度や生涯年収のモデル、生計費といった情報を従業員に提供する。そして若年層の段階から定年後の人生設計を考える機会を提供することが本質である。企業における本人のキャリアプラン(昇進・昇格、配置・異動等)と社会人としてのライフプラン(入社、結婚、育児、介護、リタイア等)が上手くマッチングすることが成功の鍵である。



従業員の自立を促す
例えば定年時に継続雇用を希望しない人生設計を準備している人がいると仮定しよう。多くの人が継続雇用を選択する前提で55歳時一律に賃金をカット、65歳まで継続雇用するという制度設計ではこのようなニーズには対応しきれない。継続雇用制度を選択せず60歳定年でリタイアする人生設計を考える人を優先して処遇しようという発想が制度設計に埋め込まれてもいいはずである。


法律が変わり、希望すれば継続雇用が可能になった。だからその制度に乗ろうという消極的姿勢を助長するならば、組織のダイナミズムは大きく後退しかねない。高年齢者が積極的に自分の人生設計をして、定年時にリタイアするあるいは継続雇用の道を選択することこそが重要なプロセスである。その結果として今の高年齢者世代がhappyであり、その姿を見ている現役世代が自分達の将来を投影し、期待感と安心感で満たされなくてはならない。そのためには現役時代からのキャリアプランやライフプランについて本人が自立的に考える機会を提供し、研修等も含めて支援する『場』の設定が望まれるところである。


継続雇用制度を選択した高年齢世代は確かに体力的な減退は否定できないが、代わりに人脈やその専門分野でのノウハウ、経験という資産がある。これらを積極的に引出し、活用することで現役世代のフィールドを拡張することが可能になる。現役世代従業員のモチベーションが高まり、その成果の一部が再雇用者の賃金に還元される好循環を生み出す人事戦略の検討、ならびに制度設計の構築が求められる。

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