人事部門の「人間ドック」~人事労務診断のススメ

RSS
  • コンサルティング企画部 主席コンサルタント 廣川 明子

先日、人間ドックを受診した。精密検査ののち、医師から結果の説明と健康に関するアドバイスを受けた。普段意識していなかった健康状態の悪化などを指摘され、改めて受診の必要性を感じたところである。


さて、小職が人事制度の改定コンサルティングを提供する際には、まず始めにお客様の人事制度の全般の分析を行う。正しい現状認識がないことには“あるべき制度”を構築することは不可能だからだ。


我々はこのような分析を「人事労務診断」と称している。各種規程やヒアリングなどから得られた情報をもとに、個別の問題点を抽出し、課題の全体像を把握する。「人事」と「労務」の2つの視点で分析を行い、前者では人事制度・運用が企業業績の向上に資するか検証し、後者は法令遵守の状態や労務リスクの程度を測定する。「精密検査」と「専門家による診断・指導」を行う点で人事部門の「人間ドック」ともいえよう。

人事労務診断の全体像

人事制度の改定に限らず、人事部門の抱える様々な課題を解決するために「人事労務診断」は有効である。主な理由は3点ある。

1. 本質的な問題・課題を把握することが、根本的な問題解決につながる

お客様から、「個別の問題はよく分かっているのですが、根本的な原因がわからなくて」という相談が寄せられる。個別の問題に向き合う中で、全体を俯瞰することは難しい。その結果、個別の課題を解決するために人事制度の部分修正といった対症療法を繰り返すこととなる。「人事労務診断」により本質的な問題・課題を認識することが、根本的な問題解決の第一歩となろう。

2. 経営陣と本質的な問題・課題を共有することで、経営と人事のベクトルをあわせる

経営陣が認識している人事労務の課題が「人件費」と「懲戒案件」のみという企業は意外に多い。このような状態では、社員の力を業績向上に結びつけることは難しい。経営陣が本質的な問題・課題を認識することが、経営と人事のベクトルを一致させ、人材を活性化し、業績向上につながるだろう。

3. 外部専門家による診断を受けることが、妥当性・適法性の確保につながる

冒頭の人間ドックの例のように、外部専門家の指摘によって始めて問題として認識されることは少なくない。最近は労働法令の新設や改正が頻繁に行われるなど、参照すべき基準を捉えることが難しくなっている。業務の妥当性や適切性の確保のために、外部の専門家を活用する意義があるだろう。


「人事労務診断」は、内部監査として社内で実施することも可能だ。『労務監査』や『労務コンプライアンス診断』というタイトルでマニュアル本も出版されており、参考にできるだろう。この場合、費用を抑えられる反面、必ずしも本の内容が自社に適しているとは限らず、専門家の診断を受けることもできない。内部監査を予定している企業でも、初回だけは社会保険労務士や我々のような人事制度や労務管理に精通したコンサルタントを活用することも一案である。


これからの人事部門には、個別の人事や労務の問題対応だけではなく、企業業績の向上に貢献することが強く求められるだろう。労務の守りを固め、攻めの人事に転じるために「人事労務診断」が一助となれば幸いである。

なお、「人事労務診断」は、以下のような場面で多く活用されている。参考にされたい。

  • 人事制度を自社で改定したが、思うような効果が得られない
  • 上場を目指しており、内部統制の強化の一環として人事労務体制も整備したい
  • 上場をしたので、人事労務体制も上場企業として然るべきものに再構築したい
  • 会社が急成長を遂げたため、人事制度の整備が追いついていない
  • 社内に人事や労務に精通したスタッフが限られている

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス