キュレーションによる目標管理で会社を変えてみよう(その2)

RSS
  • コンサルティング第二部 主任コンサルタント 柳澤 大貴

前回3月28日はキュレーションの発想を目標管理制度に活用するアイデアを提起した。くり返しになるが、今回はその内容を具体的に現場レベルで使いこなす方法論について言及したい。モデル事例を用いて目標設定を行うプロセス改善を疑似体験していただきたい。

目標設定にキュレーションの発想を取り入れる

モデル企業を製造業のA社とする。A社は目標管理制度を導入して15年が過ぎた。当初は「社員が挑戦的な目標を掲げ、達成へ向けて自律的な取り組みを促進する」というスローガンで始まった。仕組みは定着しているが、全社的に上司も部下も双方が停滞感を感じている。最近は外部環境も厳しくなり、目標の内容も挑戦的というよりは、手堅い内容・レベルのものが多くなってきた。人事部が現場を回りヒアリングを実施した。上司(評価者)、部下(被評価者)から寄せられた主な意見は次の内容であった。

(上司から)

  1. 目標の内容が毎年同じで、数値だけが入れ替わっている。
  2. 本人の資格等級に対してやさしいと思われるレベルの目標を設定している。
  3. 目標の内容が曖昧である。
  4. 部門の方針とやや乖離した目標が見受けられる。
  5. 新規性や挑戦意欲があまり感じられない。

(部下から)

  1. 部門の方針や目標が曖昧で個人の目標設定に関する情報が不足している。
  2. 上司も多忙なので目標の摺り合わせの面談時間が少ない。
  3. 定量目標が立てにくい部門や仕事は成果の記述が難しい。
  4. 自分が立てた目標が自分の資格等級にふさわしいか判断に迷う。
  5. 自分の目標が会社業績のどこに貢献しているのか見えにくい。

以上が上司、部下双方から寄せられた代表的な意見であった。

人事部は上司と部下の意見を尊重して目標管理制度のてこ入れを実施した。改革のポイントは大きく3点である。

  • 全社の重点取組み課題をキュレーションし、4つの領域に整理する(図表参照)。
  • 部門方針と目標は、上司と部下全員が共有する。
  • 部下の目標設定の支援ツールとしてお手本となる目標を目標管理データ・ベース(DB)(図表参照)として用意した。

図表 目標設定におけるBSCとDB

図表 目標設定におけるBSCとDB

※図表は大和総研にて作成
※BSCはバランスト・スコアカード、DBはデータ・ベースの略(図表は3/28掲載のものと同様)

目標設定が飛躍的な変革を遂げる瞬間

さっそくA社の調達部門では新年度の目標設定が始まった。上司は4つの領域のマップを活用することで、自部門の年度方針や目標を設定することが容易になった。同時に部門のミーティングではマップを使い、部下全員と部門目標を共有できる環境が整った。さらに部下の資格等級ごとに期待する成果レベルも伝えることにした。このプロセスのおかげで部下も目標設定に関する情報不足から解放された。ここまでに要した時間は前年の1/3以下であるが、中身の濃さはそれをはるかに上回った。


部下は部門目標を参考にして自らの年度目標を設定する。部下には更なる有益な情報が提供された。それが目標のデータ・ベース(DB)である。これはお手本となる目標の例が蓄積されているものである。社内の過去3年間の目標から評価が高かった目標を選別した。それを人事スタッフがキュレーションを行い纏め上げた。管理職の意見も反映させ、さらに外部機関の協力も得て目標のデータ・ベースをリリースした。部下は4つの領域に対応して設置された目標のデータ・ベースを参照することが可能になった。その結果、資格等級にふさわしいレベルの目標を短時間で作りこみができるように改善された。部下は定量目標・定性目標どちらの場合でも、的確な記述ができるようになった。


例えば入社7年目、資格等級が4等級のB君の目標を見てみよう。B君の昨年の目標の1つは「担当する上位20品目の在庫削減を行い年間○千万円のコストダウンを実現する」であった。もちろんこの目標は優れているし、達成度も申し分なかった。上司はさらに踏み込んだ目標設定を期待した。助言を受けた結果B君が設定した今年の目標の1つは「天変地異・政情不安などのリスク要因も考慮した新しい『適正在庫基準表』を作成する」である。グローバルな視点も採用してステップアップした目標となった。上司は評価時点で適正在庫基準表が完成していることと、その内容を評価すればよいことになる。

目標も人材も常に進化し続ける

目標のデータ・ベースの内容は1年後に更新される。優れた成果を出した目標をデータ・ベースに追加し、陳腐化した内容は消去する。この繰り返しにより目標のデータ・ベースの水準は向上することになる。ここに大きな意義がある。目標の水準が向上すれば人材育成のスピードも加速し、結果として企業業績も向上するからである。今後A社はグローバル人材の採用・育成・活用、そして目標管理制度以外の人事考課制度(能力考課・情意考課)、他のマネジメント領域にキュレーションの発想を取り入れていく計画である。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス