株式報酬型ストック・オプションは誰に付与すべきか

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  • コンサルティング第二部 主任コンサルタント 小林 一樹

昨今の株高やコーポレートガバナンスへの関心の高まりを背景に、ストック・オプションを導入する企業が増加している。報道によると、2014年にストック・オプションの付与を決めた企業は2013年比16%増の582社と最多であり、そのうち約6割の企業が株式報酬型ストック・オプションを付与しているとのことである(※1)。株式報酬型ストック・オプションは役員に対するインセンティブプランとして存在感を強めている。


株式報酬型ストック・オプションの導入を検討する際、最初の検討事項となるのが、「誰に付与するか」である。株式報酬型ストック・オプションは、役員退職慰労金の代替制度として導入されるケースが多いため、役員向けのインセンティブプランとして浸透している。ただし、一口に役員と言っても、取締役と監査役では考え方が異なる。本稿では、株式報酬型ストック・オプションの付与対象者を決定する際、考慮すべきポイントを整理する。なお、委員会設置会社を除く企業を議論の対象とする。

取締役と監査役の考え方

そもそも株式報酬型ストック・オプションは、企業価値の向上に対するインセンティブプランである。そのため、株式報酬型ストック・オプションは、企業価値向上に向けた業務の執行を主たる役割とする役員に与えられるべきである。会社法に定められた役員とは「取締役、会計参与及び監査役」を指す。取締役で構成される取締役会は「業務執行の決定」と「取締役の職務の執行の監督」を役割としているが、「業務の執行」を個々の取締役が担っているケースが実情として多い。そのため取締役による業務執行の対価として株式報酬型ストック・オプションを付与することは、企業価値向上に向けたインセンティブとして機能すると考えられる。一方、監査役などに株式報酬型ストック・オプションを付与するケースは少ない。なぜなら監査役は、取締役の意思決定に対して、その適正性を監視する、いわばブレーキの役割を果たしているためである。仮に、監査役に対して、取締役と同じベクトルのインセンティブを与えてしまうと、その役割が十分に機能しない恐れがある。監査役に対してストック・オプションを付与している事例もあるが、コーポレートガバナンスが機能するか慎重に見極める必要がある。

社外取締役の考え方

ここで、昨今話題を集めている社外取締役について考えてみたい。社外取締役の役割については様々な議論があるが、現状では経営を監督する役割を担うことが多い。社外取締役の役割を経営者の監督と位置づける場合、前述の監査役と同様の理由で、ストック・オプションの付与は適切でないと考えられる。実際、社外取締役に株式報酬型ストック・オプションを付与するケースは少ない。しかし、2014年12月に金融庁から発表された日本版コーポレートガバナンス・コード原案には、経営者の監督に加え、企業価値向上を図る「助言」を行うことが役割として盛り込まれている。

「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」より抜粋
【原則4-7.独立社外取締役の役割・責務】
上場会社は、独立社外取締役には、特に以下の役割・責務を果たすことが期待されることに留意しつつ、その有効な活用を図るべきである。
(ⅰ)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと

社外取締役に、企業価値向上を図る「助言」を期待する場合、株式報酬型ストック・オプションを付与することがインセンティブとして機能するケースもあると考えられる。社外取締役に株式報酬型ストック・オプションを付与している企業は、「助言」を行う役割に重点を置いているのであろう。自社が社外取締役に対して、どのような役割を期待しているかによって、ストック・オプションの意味合いが変わる。社外取締役に株式報酬型ストック・オプションを付与する際は、期待する役割に応じて決定すべきである。


株式報酬型ストック・オプションは役員報酬の構成要素として有用な選択肢である。今後もコーポレートガバナンスに対する取り組みの強化をうけ、株式報酬型ストック・オプションの導入を検討する企業が増えると思われる。「誰に付与するか」を考える際は、付与対象者に求める役割を整理することが肝要である。


(※1)2015年1月31日付日本経済新聞

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