ASEAN主要国における「食」へのお金の使い方

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日本からの食品輸出が増加している。2月9日に発表された2017年の農林水産物・食品の輸出実績(速報値)は前年比7.6%増となる8,073億円であった(※1)。輸出額の多い10ヵ国(国には地域を含む、以下同じ)をみると、2位の米国(1,116億円)と9位のオーストラリア(148億円)を除けば、すべて東アジア、東南アジアの国が占める(1位は香港の1,877億円)。特にベトナム(6位、前年比22.4%増)、タイ(7位、同18.7%増)、フィリピン(10位、同24.5%増)では、他国を大きく上回る伸びを記録している。政府は2019年には当該輸出額の1兆円達成を目指しており、今後もアジア諸国向けの輸出の増加が期待される。


しかし、アジア諸国からの需要が増えているといっても、「食」の嗜好や文化は国や地域によって様々であり、日本の食関連企業それぞれにとって、自社製品の販売有望先の国や市場を判別することは必ずしも容易でない。そこで、以下ではこうした有望市場判断の一助とするため、ASEANを中心にアジア諸国の「食」関連支出の統計から国別の特徴分析を試みる(図表参照)。


なお、この図表はEuromonitor Internationalの資料を基に、アジア主要12ヵ国の使途別消費支出の比率を求め、全体平均に比べて比率が著しく高い、または低い項目を示したもの。これらの比較は「どの食品に相対的に多く支払っているか」を表しており、「1人あたりの消費量」や「市場規模」のような絶対的な規模の比較を意味するものではない点に留意が必要である。

アジア諸国の「食」関連支出比率と内訳(2016年)

図表の最上行①は、スーパーマーケット等で購入し「内食」として消費される食料、飲料(アルコール飲料も含む)の支出額を、住居費、教育費、娯楽費等を含む消費支出全体で除した比率である(※2)。この「内食」向け支出を国別で比較すると、フィリピン(42.5%)、ベトナム(39.8%)が他国を大きく上回っており、インド(32.0%)やインドネシア(31.6%)等、1人あたりGDPでみた所得水準の低い国の比率が高い傾向にある。他方、高所得国のシンガポール(7.3%)は最も低く、1人あたりGDPが20,000ドルを超える香港、日本、韓国、台湾でも15%前後の水準となっている。


加えて、図表中の④には「内食」向け支出の内訳を構成比が示されている。ASEAN主要国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)を例に、内訳構成から見た特徴を紹介すると以下の通りとなる。


■シンガポール(2016年の1人あたりGDP:52,961ドル)
所得水準が最も高いこともあり、嗜好性の高い「コーヒー・紅茶」と「アルコール飲料」、特に「ワイン」の比率が3.1%と比較対象の中で最も高い(全体平均は0.9%)。「ワイン」は過去10年間に内食向け支出構成比で1.0%ポイント上昇と、特に選好が高まっている。このほか「食料」の構成分野の比率は他国と大きな差はないものの、当該10年間では「卵・乳製品」の比率が上昇し(+1.8%ポイント)、「魚介類」が大幅に低下している(▲2.5%ポイント)。


■マレーシア(同:9,374ドル)
イスラム教を主な宗教としている関係で、「アルコール飲料」の比率が1.9%と他国に比べて低く(平均4.9%)、その一方で「魚介類」の比率が21.8%と高い(同12.6%)。過去10年間では「野菜」の比率が上昇し(+1.2%ポイント)、「パン・シリアル」が低下している(▲1.9%ポイント)。


■タイ(同:5,902ドル)
「食料」の比率が低い一方で、「飲料」の比率が突出して高いのが目立つ。飲料のうち「水、清涼飲料、果物・野菜飲料」の比率が9.9%と比較対象の中で最も高い(全体平均3.5%)。また、アルコール飲料では、「スピリッツ」の4.0%(同1.7%)、「ビール」の3.9%(同2.2%)が高い一方で、「ワイン」の0.4%は全体平均(0.9%)を下回っている。 このように飲料比率の高さが特徴のタイだが、10年前はさらに比率が高かった。過去10年間で「ビール」は▲2.4%ポイント、「スピリッツ」は▲1.9%ポイント、「水、清涼飲料、果物・野菜飲料」は▲1.2%ポイント低下している。他方、比率を高めているのが「油脂」+1.9%ポイント、「肉類」+1.5%ポイント、「パン・シリアル」+1.3%ポイントなどとなっている。


■インドネシア(同:3,604ドル)
マレーシア同様にイスラム教徒が多いため、「アルコール飲料」の比率が0.6%と比較対象の中で最も低い(平均4.9%)。また、「肉類」も7.2%と平均(17.9%)を大幅に下回っている。その一方で、「パン・シリアル」(26.7%)と「油脂」(5.1%)の構成比が相対的に高い。
過去10年間の推移をみると、構成比の変動幅が他国に比して大きい。比率が上昇したのは「卵・乳製品」+2.7%ポイント、「果物」+2.4%ポイント、「肉類」+2.2%ポイントで、低下したのは「パン・シリアル」▲4.1%ポイント、「野菜」▲1.7%ポイントとなっている。


■フィリピン(同:2,927ドル)
主食となるパン、シリアル、米の比率が極めて高く、逆に果物や野菜が極めて低い。いずれも、比較対象の中で最も高いか、最も低い水準にある。「パン・シリアル」は30.2%(平均18.0%)、米が含まれる「その他」は9.0%(同4.8%)、「果物」は3.3%(同8.3%)、「野菜」は5.5%(同12.7%)となっている。
過去10年間では、「その他」の上昇(+2.4%ポイント)と「野菜」の低下(▲2.5%ポイント)が顕著だが、「肉類」の上昇(+2.1%ポイント)も目立っている。


■ベトナム(同:2,172ドル)
相対的に高率なのが「肉類」と「菓子・砂糖」で、その一方で「卵・乳製品」と「野菜」の比率が低い。特に「肉類」は34.2%と比較対象の中で最も高い水準である(平均17.9%)。過去10年の変化をみても、「肉類」の比率は+6.3%ポイントと大きな伸びをみせている。逆にその影響を受けているのが「パン・シリアル」で、過去10年で▲9.9%ポイントと大幅に低下している。


所得水準の上昇もあり、日本からASEAN諸国への農林水産物・食品の輸出は増加傾向にある。今後も所得水準や生活スタイルの変化に伴い「食関連支出」の内容は変わっていくと予想されるが、足下の各国の特徴を理解することは、新たな事業展開を検討する日本の食関連企業にとって重要なことと思われる。(了)


(※1)「平成29年12月農林水産物・食品の輸出実績(速報値)の公表(平成30年2月9日掲載)
(※2)因みに図表2行目の②は、外食等のケータリング支出を消費支出全体で除した比率である。「外食」向け支出では、ベトナム(13.0%)、香港(12.9%)、タイ(11.8%)の比率が相対的に高く、インド(1.9%)、フィリピン(2.9%)が低い。その下の③は、①「内食」向け支出と②外食の合計で、消費支出に占める飲食費の比率を表した「エンゲル係数」とほぼ同義とみることができる。

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