中国のインバウンド「爆買い」と越境ECによる「越境オムニチャネル戦略」の考察(前編)

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 芦田 栄一郎
中国訪日旅行者の推移

中国からの訪日外国人旅行者(総数)の推移は図表1に示すように2014年では約240万人にのぼり、2013年の約1.8倍もの訪日数がある。日本滞在中の購買意欲は非常に高く、その消費行動は大量にまとめ買いをすることから「爆買い」としてマスコミ報道されるようになった。米国eMarketer社によれば、インターネット人口世界一の中国は、BtoC-EC(電子商取引)市場においても4,260億ドルと今や世界一の市場規模をもつ国になった(※1)


この爆買いを越境EC(電子商取引)に上手くつなげて帰国後の継続的な消費行動に結びつけることができれば日本のEC事業者にとって商機となる。本稿では「越境オムニチャネル戦略」としての可能性について、その課題と可能性について考察したい。


訪日中国人客の消費行動の一例として、来日前に日本で買うべき「買い物リスト」を作成し、滞在中にお目当ての商品を次々と購入していくばかりでなく、予定した商品に加えて、訪問先で目にした商品を、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログで写真や動画を投稿することで情報発信する。それに対して閲覧した知人が「自分の分も土産として買ってきて欲しい」と返信する。こうして消費が拡大する行動がメディアでもよく報道されている。日本国内の店先では「店内撮影禁止」の看板をよく見かけるが、可能であるならばSNSやブログで発信してもらえるように「撮影歓迎」の表示や思わず写真を撮りたくなるようなアイテムを意識的に陳列することで爆買いのアクセルを踏ますことを提案したい。


それらの写真が契機となって帰国後も、自分のための追加購入や知人からの依頼によるリピート購入のニーズが高まり、日本へのインターネットショッピングへ向かうという中国人消費者が増えるという流れができれば決して悪くはない対応であると考える。


訪日中国人客の爆買いによる消費行動に見られるように、日本で販売されている商品は人気がある。たとえ、その商品が中国で製造されたものであっても日本国内において日本人向けに販売されているものであれば、一般的にクオリティが高く、偽物がほとんどなく正規品を手に入れられると人気を博している。しかし一方で、日本で販売されているものなら何でも売れているわけでないので、越境ECにおいてもプロダクトアウトの発想ではなく、マーケットインの発想が重要になってくる。中国人が日本で購入したい商品を知るためには、訪日中国人客が多く購入している商品を把握し、売れ筋商品を知ることがヒントになる。その裏付けデータになるものが、図表2の「越境EC購入経験のある商品」である。越境EC、すなわち海外からの購入商品では身体に触れるもの(アパレル、化粧品)、口に入れるもの(粉ミルク、食品)、デジタル製品が人気商品である。それに加えて、日本にしかない商品、または日本の技術力が突出しているものに売れ筋は絞られてくる。裏を返せば、それ以外の商品を越境ECで販売するには、売るための工夫やストーリー作りが必要になってこよう。

越境EC購入経験のある商品

日本のEC事業者が中国人を対象とした越境ECを成功に導くためには、国の越境ECユーザーの特徴を把握することも重要である。


国内で日本人向けに販売戦略を構築することと同様に「ターゲット顧客はどこにいるのか」「顧客はどのような消費行動をするのか」ということを調査・分析し、自社の商品・サービスをどのように市場投入すべきかを練り上げることが求められる。


筆者も調査メンバーとして参画した経済産業省「平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基礎整備(電子商取引に関する市場調査)」(2015年5月)でも述べたことであるが、中国の越境EC利用者の特徴は、図表3に示すように「若年層・高学歴・高収入・1級都市」である。


次に、越境ECにおける購入先の国別利用サイト状況では、図表4に示す通り、越境ECユーザー(n=2350)が「オンラインショッピングで1度でも利用したことがある国」のトップは米国で64.3%であった。次いで日本の31.0%と続いており、日本が置かれている基礎的条件は決して悪いものではないと考えている。

越境EC利用者の特徴
越境EC購入先

今後も訪日中国人客数の伸びが期待できる前提であれば、越境ECにおける販売戦略を単独で考えるのでなく、国内の実店舗による誘客と越境ECによる相乗効果を狙った「越境オムニチャネル戦略」で売り上げを伸ばす可能性も生まれる。すでに、訪日中国人客に帰国後のリピート購入をしてもらうため、来店時に中国語によるチラシを配布して帰国後の越境ECに誘導している小売店も存在する。


訪日中国人客による国内店舗販売と帰国後の越境ECによる「越境オムニチャネル戦略」でリピート購入の連鎖を構築することも越境ECを成功に導くための一考ではないか。


訪日中国人客の中には、越境ECに対する抵抗感を持つインターネットユーザーが存在することも予想される。特に越境ECの障害となる「3つの壁(言語・決済・配送)」がその要因として考えられる。それらの課題が解決されれば、さらに中国消費者による日本商品購入の越境EC市場の伸びが期待できる。次回、後編では、その3つの壁の解決策および中国越境EC市場へのビジネス展開パターンについて考察したい。


(※1)中国のBtoCインターネット市場規模については、2015年4月23日付け本コラム「保税区を活用した中国電子商取引(EC)市場開拓の考察」(芦田栄一郎)を参照

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