「和食」と「東南アジア観光客」

国産味噌・醤油メーカーの事業機会

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タイをはじめとしたASEAN主要国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)での日本食人気もあり、日本からASEAN主要国への味噌と醤油の輸出額(1~10月までの累計)は前年同期比で2割強伸びており、2013年通期では過去10年で最高となるペースで推移している。

図表1. 醤油と味噌のASEAN主要国向け輸出額

しかし、味噌と醤油は同じ大豆由来の調味料ではあるものの、両者を比較すると、味噌はほぼ毎年輸出額が伸びているのに対し、醤油の輸出額はそれほど伸びていないことが分かる。寧ろ、2007年から2012年まで、醤油の輸出額は微減傾向にあった。これは、ASEAN主要国での醤油の消費量が落ちているからではない。Euromonitor社の調べに拠ると、「大豆由来の調味料」(主に醤油)の1人あたりの年間消費量(小売販売+外食)は、インドネシアとシンガポールが1.6~1.7kg、フィリピンとマレーシアが1.1kg、タイとベトナムが0.9~1.0kgと、10年前に比べてシンガポール以外はほぼ倍増している。倍増したといっても、日本(6kg)に比べればまだ少なく、今後も市場が拡大する余地は大きい。


これまで、成長してきた醤油市場のシェアをとっていたのは欧米系や地場のメーカーであった。日本企業ではシンガポールでのキッコーマンがシェア10%強(4位)であるが、なかなかシェア奪取までには至っていない。


日本からの輸出量を国別でみると、特にタイへの輸出量の落ち込みは大きい。2007年当時はタイ向けの輸出量がASEAN向けの35%を占めていたが、2012年のタイ向け輸出量は2007年比で半分未満となっている。この間、シンガポールやインドネシアへの輸出が増加しているが、タイ向けの落ち込みで相殺されている。


他方、味噌の輸出量は過去10年間、増加し続けている。特にタイとシンガポール向けが大きく牽引している。味噌に関しては大手メーカーの進出がみられないことから、今後、現地での需要が伸びれば、日本からの輸出も増えていくものと推察される。

図表2. 醤油のASEAN諸国向け輸出量
図表3. 味噌のASEAN諸国向け輸出量

このように、国産醤油にとっては厳しい環境ではあるが、最近になって明るい話題が表れ始めている。


日本経済新聞社がまとめた2013年の日経MJヒット商品番付には、「東南アジア観光客」が「西の大関」にランクインした。タイ、マレーシアにはビザ取得を免除、ベトナムとフィリピンは期限内での訪日回数に制限を設けない数次ビザを発給、インドネシアには数次ビザでの滞在期間の延長を、それぞれ2013年7月から始めた。これらのビザの発給条件が緩和されたことに加え、円安が進んだことも東南アジアからの観光客数増加の追い風となっている。中でも、タイからの観光客は1月から8月までの累計ベースで前年同期比76%増、ベトナムからは同62%増と大幅に増えている(いずれも日本政府観光局調べ)。


また、12月4日には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、日本政府が推薦した「和食 日本人の伝統的な食文化」を無形文化遺産に登録することを決めた。食関連の無形文化遺産の登録は5件目で、和食に対する海外からの注目度が一層高まるものと期待される。


「東南アジア観光客」と「和食 日本人の伝統的な食文化」のニュースから、今後、東南アジアからの観光客が日本で和食を食べることで、醤油をはじめとした国産の調味料に数多く触れられるものと期待される。日本国内の食品市場でメーカー各社のシェア争いが厳しい中、これらの海外の顧客層へのマーケティングによっては、醤油や味噌だけでなく、和食に係る国産調味料メーカーのビジネス機会が広がるのではないだろうか。

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