地域・パブリック
2020年東京五輪に結実する一体感のレガシー

東日本大震災で始まる10年紀の締めくくりとして

2014年12月17日

  • コンサルティング・ソリューション第三部 主任コンサルタント 鈴木 文彦

ロンドン五輪が終了後に遺したものをまとめたレポートによると、健康増進や都市再生に並んで、国民の心に共同体としての一体感をもたらしたこと(bringing communities together)が挙げられている(※1)。ロンドン大会の運営は、約7万人の公式ボランティア「ゲームズ・メーカー(Games Makers)」、道案内や情報提供を担う約8千人の「ロンドン・アンバサダー(London Ambassadors)」など多くの市民参加で支えられていた。目的を一にした共同作業を通じ共同体への参画意識が高まり、大会後も各種ボランティア参加率が高まったという。

オリンピック・パラリンピックが終了後に遺したものを「レガシー(遺産)」と呼ぶ。スタジアムや宿舎、道路・鉄道など有形のものに限らず、イベントによって社会関係や人心が変化したようなものもレガシーである。近年、わが国で人心を変えるほどの印象的な出来事といえば、筆者は東日本大震災を想起する。筆者はそのとき東京に居たが、テレビで津波がおしよせる様を見、刻々と変わる原発事故の推移を見守る中、この国はどうなってしまうのだろうと思った。テレビコマーシャルがACのものに差し替えられ、節電で暗くなった夜を過ごす中、日常の風景が決して当たり前でないことに気が付いた。それほどに人心を変える出来事だった。そして多くの日本人が、未曾有の国難に対し自分は何ができるのかを考えたはずだ。慶事とはまったく逆の厄災ではあるが、結果をみれば東日本大震災は私たちに共同体としての一体感をもたらした。

オリンピック・パラリンピックの運営に欠かせないボランティアといえば、わが国では度重なる災害を通じてノウハウを蓄積した経緯がある。阪神淡路大震災が遺したボランティアの運営ノウハウは東日本大震災で強化された。震災直後から全国でボランティアが組織され被災地に続々と赴いた。ボランティア募集の方法、現場ニーズと支援物資・ノウハウのマッチングの方法、現場における役割分担など秩序だった支援行動を促すノウハウが存在する。経験は年々積み上がり、最近では丹波市の水害、広島市の土砂災害でも直ちにボランティアの募集と派遣の体制が立ち上がった。

地域住民で作り上げ感動を分かち合う事例として、「祝!九州縦断ウェーブ」がある。奇しくも東日本大震災の翌日の2011年3月12日に九州新幹線が開通。JR九州が開通を記念して撮影されたCMが感動を呼んだ。七色にラッピングされた新幹線が鹿児島中央駅を出発し、博多駅に到着するまでの間、沿線に地域住民が集まって、新幹線が通過するタイミングで、ウェーブしたりダンスをしたりと思い思いのパフォーマンスで開通の喜びを表していた。3月から始まったCMは震災でいったん自粛されたが、口コミで拡がっていった。筆者を含めYou Tubeで見た人は多い。「ひとつになった九州で新しい力がうまれています。ひとつになった九州で日本は楽しくなるはずです」の語りかけに多くの日本人が共感した。

東日本大震災と九州新幹線。厄災と慶事の両極端ではあるが、いずれも私たちのうちに眠る共同体としての一体感を呼び覚ました出来事だった。これも広い意味では「レガシー」と言えよう。これを2020年東京五輪に活かせないか。たとえば聖火ランナーの演出で九州新幹線の手法が参考になる。ランナーが陸前高田の奇跡の一本松を出発し、沿道の声援を浴びながら被災した海岸沿いをなぞる。復興の軌跡を辿りつつ、その努力が2020年東京五輪に結実するというストーリーだ。復興を全世界にアピールする。

度重なる災害を通じて確立したボランティア組織の運営ノウハウは2020年東京五輪に応用できる。ノウハウだけではない。一番大切なことは、正念場に対峙して一肌脱ごうという動機づけだ。そして、組織に拠らずして私たち一人一人が国を代表する気持ちで、海外からやってくる人たちをもてなすことだ。立ち往生している人を見つけたら道案内をかってでることもひとつだが、これも、東日本大震災のとき自分がどのように行動したかを思い出せば体がスムーズに動くのではないか。

ひるがえって、東京五輪の準備を通じて強化されるボランティア組織の運営ノウハウは、2020年以降のわが国の問題解決にも役立つはずだ。人口減少と高齢化が確実視されるところ、厳しさを増す予算制約の下で、町内会などコミュニティ自身が公共施設の維持管理を施し、様々な公共サービスの担い手になることを求められている。こうした問題に、非営利組織の立ち上げ、経営と動機づけのノウハウが功を奏するだろう。これも、東京五輪が遺すべきレガシーである。

オリンピック・パラリンピックのような国際大会を通じて、日ごろ思いをはせない「国」のイメージをあらためて認識する。東日本大震災という未曾有の国難を乗り越えるスローガンは「がんばろう日本」だった。どん底の中で希望をもたらした九州新幹線のキーワードは「ひとつになろう」である。行き過ぎた個人主義が指摘されてきた時代、東日本大震災をきっかけに再び呼び覚まされた共同体精神が2020年東京五輪に結実する。2011年に始まる10年紀は東日本大震災で始まり、東京五輪で締めくくられる。後世、この10年間で日本人の意識がステップアップしたと語られるよう、一体感のレガシーが東京五輪に作り込まれることを期待したい。

Inspired by 2012:The legacy from the London 2012 Olympic and Paralympic Games

(※1)"Inspired by 2012:The legacy from the London 2012 Olympic and Paralympic Games" A joint UK Government and Mayor of London report

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

執筆者紹介

関連サービス

お問い合わせ

PDFファイルの閲覧にはAdobe® Reader®新しいウィンドウで開きますが必要となります。お持ちでない方は、アドビ システムズのウェブサイトから無償ダウンロードができます。
なお、Adobe® Reader®のインストール方法は、アドビ システムズ ウェブサイト新しいウィンドウで開きますをご覧ください。

Get Adobe® Reader®

コンサルティング

コンサルタント

セミナー