地域・パブリック 経済・ビジネストピックス
統合・広域化は水道の問題をどのように解決するのか

~スケールメリットよりむしろ負荷平準化がポイント~

2011年2月2日

事業統合にスケールメリットはあるのか
高度成長期に拡張した水道の寿命が近づき、遠からず更新にお金がかかると見込まれている。消費者の要求水準が高まりトイレの水にも「おいしさ」(※1)が求められる一方で、かつて拡張期に活躍した技術者が老境を迎える昨今、水道技術の継承も心もとない。こうした中、技術と財源の有効活用を図ろうと、周辺の水道局が統合し広域化しようという動きがある。小さく非効率な水道局がいくつか集まって大きくなればスケールメリットが出るだろうという理屈であるが、そう単純にうまくいくものなのか。だとすれば市町村合併を経て水道料金が値上げになることもないと思うのだが。
大規模化して職員数が減るとはかぎらない
上の図は、水道局の職員1人が何人の住民をカバーしているかを職種別にみたものである。まず事務職員についてみてみると、給水人口が大きくなるほど事務職員1人がカバーする住民数も大きくなる。水道局で事務職員といえば総務部門や料金徴収、窓口部門などであるが、これらについては規模が大きくなるほど効率性が高まる、一言でいえばスケールメリットがあるようだ。次に技術部門をみてみると、給水人口10万人クラスまでは技術職員1人当たりの給水人口が大きくなってゆくが、これを超えるとかえって小さくなってゆく。技術職員1人当たりの配水管延長も短くなりいわば管理が手厚くなってくる。確かに、配水管の敷設替えにしても平野に道路しかないところより、夜間に交通規制を敷き埋蔵物を掻き分けながら工事する街場は手間がかかる。技術水準にしても、大きな水道局になると役割が細かく専門分化し総じて高い。このようなことが背後にありそうだ。いずれにせよ、事業統合などによって水道局が大規模化したとしても技術者は相応に必要であるため、合計でみれば職員数にかかるスケールメリットを認識しがたい。
もっとも、コスト面でなく技術面をみれば、統合される側の小規模水道には明らかにメリットがある。統合相手が擁する高度技術の恩恵をうけるからである。規模が小さい水道局で職員は一人何役もこなす必要があり、漏水管理や管路図のデジタル化、防災対策など大きな水道局で充実している技術分野に専門職を配置する余裕はない。ただでさえ貴重な技術者が高齢化し近いうちにいなくなるとしたら、やはり事業統合による広域化は小規模水道局にとって喫緊の課題に違いない。このことから、統合効果を人の面からみたとき、それはスケールメリットというよりはむしろスピルオーバーの切り口で説明すべきであろう(※2)
繁閑の差が大きいことが問題
本稿で言いたいのは、水道局が統合を経て広域化するメリットは単純にスケールメリットで説明できるものではないということだ。そもそも規模が小さいことの何が問題なのかを考えてみたい。次の図は年間総配水量毎にみた水道施設の負荷率の分布である。負荷率とは最大稼働率と平均利用率からなる分数式である。簡単にいえば一年で最も大きかった配水量を100%としたときの平均水準の値であり、これが小さいほどピークと平均水準の乖離が大きい、つまり繁閑の差が大きいことを意味する。図をみると、年間総配水量が小さいほど負荷率のバラツキが大きく、したがって施設稼働率の繁閑の差が大きい事業体が多いことがわかる。ありていにいえば稼働率の低い水道局が多い。理由はいくつか考えられる。地域が限定されるとどうしても水需要のパターンが偏る。田舎であればお盆の時期に需要が集中するということがよくある。田舎でなくても、たとえば工場地帯であれば土日の水需要は極端に少ない。一方、水道業の場合、万が一にも水が出ないということがあってはならないと思われていることから、水道施設はピーク時需要に合わせて設計される。そのうえ事故時に備えた予備力を見込むのでさらに施設は大きくなる。このようなわけで小規模な水道局では人口の割に大きな設備になりやすい。これでお盆などピーク日や災害時のイレギュラーな水需要にも対応できるようになるのだが、いきおい平日ベースにならすと稼働率は悪くなる。
小規模水道において施設稼働率の繁閑差が大きくなる傾向がみられる
これで最新鋭の高性能機を導入したら投資額も相当なものになろう。メンテナンスが簡単で少人数でも対応可能なことから、家庭用浄水器を大きくしたような高性能フィルター方式を導入するケースも少なくない。大は小を兼ねるというが、コストも大きくなるとしたら考えものである。
水道ネットワークの再構築がもたらすコンパクト化とフレキシブル化
給水エリアが狭隘な小規模水道は水需要における繁閑の差が大きく、ピーク時需要に合わせて整備するため過剰設備に陥りやすい。繁閑の差が大きいのは狭隘さゆえに地域特性がストレートに現れるからだ。
したがって、給水エリアを広域化すればそうした偏りは解消され水需要は全国平均的なものに接近する。生命保険の契約者数が十分多ければ死亡率が一定割合に収束するというような文脈で使われる「大数の法則」が水需要にもあてはまる。給水人口が大きくなれば水需要の予測可能性が高まってくる。先の図にもあったように、年間総配水量が大きくなると負荷率は90%に収束する。ピークと平均の差がだんだん狭くなり、水需要が上下10%程度の変動幅に収まってくるということだ。だから、水道局の統合を考えるならば、盆と正月に人口が増えるところと、都心部のように減るところ。ビジネス地域や工業地帯とベッドタウンなど、あらゆる都市機能がワンセットで揃うような広域圏を形成するようにしたほうがよい。
水道局が統合し給水エリアが生活圏域をとりこむ形で広域化すると水需要は平準化する。しかしこれだけで問題が解決するわけではない。旧来エリアの部分最適で小さくまとまった水道局が単純に一緒になったとしても、統合後にさらに大きな過剰を抱えるだけである。スケールメリットが発生するわけではないことは前に述べたとおりだ。水道広域化のメリットをもたらすのは再構築である。需要パターンに合わせて水道施設の負荷平準化を図るのだ。稼働状況におけるピーク時の山が低くなるので、水道施設をコンパクトに作ることができる。
その上で、地域によって異なる需要特性に応じて水を供給する配水コントロールの仕組みが必要だ。ある地域では盆と正月に水需要が増えるし、またある地域では土日に水需要が少なくなるだろう。断水事故によって突発的に水を配らなければならないときもある。火事が起これば近くの消火栓に水を大量に送り込まなければならない。予測できようができまいが、必要なところに必要なだけの水をタイミングよく届ける仕組みがあってこそのコンパクト化である。日によって場所によって必要な水量は異なるが、これを右から左へ融通することで全体としての水道施設の負荷平準化が実現する。統合した後に、水が区域間で相互乗入できるような水道管の連結も必要だし、水を必要としている場所はどこかをリアルタイムで知るセンサーと水を目的地に誘導する管制システムも要る。水道ネットワークの再構築とはこれらを含んだものである。
スケールメリットは統合して広域化すればおのずと発生するものではなく、目的意識をもって作り出すものなのだ。ツギをあててだぶだぶになった服を捨て、成長した身体にフィットした新しい服を仕立てるように。偏りのなくなった水需要パターンに応じて負荷平準化を図ったコンパクトでフレキシブルな水道ネットワークを再構築することがポイントだ。こうしたことが、先行き不透明な財政環境下、老朽管更新や耐震化が遅々として進まないことが問題となっているところ、財源確保の面でも効いてくる。

 

(関連記事)「地域主権時代における水道事業の評価手法『水道版バランススコアカード』」2010年9月15日付コンサルティングインサイト
(図の出典)職種別1人当り給水人口の図は2008年度、負荷率の分布は2005年度から2008年度の決算統計から筆者が作成した。
(※1)厚生労働省「水道ビジョン」(平成20年7月改訂)の5大政策目標のひとつに「安心」が掲げられ、すべての国民が安心しておいしく飲める水道水の供給とある。風呂、トイレ、洗濯に比べれば口に入る水は少ない。が、ここであえて口に入れることを前提とした「おいしい水」と表現することで、暗黙のうちに高度な安全性をアピールしていることに留意すべき。
(※2)スピルオーバーの本来の意味は、テレビやラジオの電波がその対象エリアを越えて届くことをいう。福島県いわき市の小名浜地区以南で東京キー局のテレビ放送が見られたり、福島県相馬地方でFM仙台を聴けたりするが、こうした現象をスピルオーバーという。

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