民間企業が自社の企業活動の経済波及効果を計測する意義

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経済波及効果という言葉を聞いたことのある人は多いと思う。多くは道路・空港・港湾・鉄道等の大規模公共事業やイベント等が国全体や地域に及ぼす経済価値を計測したものであり、その多くは産業連関表を用いて行われている。ここでの計測はほとんどが国や地方自治体、公益法人など、公的主体が行うことが多い。これは、各主体に関連する施策が、経済へどのような影響を及ぼすかを計測・予測し、どのような施策を展開すると地域経済をどのように活性化されるかということを明らかにすることで、政策形成のツールとして利用したり、住民に対する説明責任(アカウンタビリティ)に利用したりするためである。


本稿では上記のような公共事業等ではなく、個々の民間企業レベルの生産活動の経済波及効果を計測することの意義について考えてみたい。通常、公共事業等の経済波及効果を計測する際は、例えば空港整備であれば、空港が建設されるには鉄筋やコンクリート、アスファルト等が必要となり、さらにそれを生産するための材料が必要になるという具合に関連産業に次々に波及していく効果を計測する。これを企業活動に当てはめると、例えば、自動車会社の場合は、自動車を製造するのにまずボディーや各種電装品、タイヤなどが必要になる。すると、それらを生産する鉄鋼、電気機器、ゴム製品等の業種の生産が増加し、さらにそれらを製造するための素材関連の業種の生産が増加するというように次々に波及する。製造業に限らなくとも例えば、情報・通信業といったサービス業に属する企業でも、自社の生産活動の生産要素として、小売業や金融・保険業、対事業所サービス業等からの中間投入があれば、それらの業種の生産が拡大し、それがまた次々に波及することになる。このような企業活動の経済波及効果は売上原価や販管費等の詳細なデータがあれば、通常の産業連関表で計測可能である。実際、筆者がある企業の依頼で、当該企業の経済波及効果の計測を行ったところ、本体と子会社の経済波及効果は連結売上の約2倍、雇用者に関しては連結雇用者数の約4倍の雇用者を誘発しているという結果になった。

(例)企業活動

企業が自社の経済波及効果を計測する意義としては、まずCSR(企業の社会的責任)の観点が挙げられる。個々の企業は売上高や雇用者数を公表しており、これは産業連関分析で言う直接効果にあたるものだが、企業の生産活動は上記で述べたように幅広い産業に生産増効果をもたらしている。また雇用者の所得がさらに消費に回ることで生産が増加する効果(間接効果)をふくめると、当該企業の経済波及効果は直接生産や直接雇用の何倍にもなる可能性がある。言い方を変えれば、当該企業の存在により、その企業の生産額や雇用者数の何倍もの生産や雇用を支えている可能性があるといえる。経済波及効果は企業の社会的業績をアピールしたいときの一つの材料とすることができる。


また経済波及効果分析は、経済波及効果(生産誘発額)に加え、付加価値誘発額、雇用誘発者数、税収増加額など幅広い分析が可能である。これらの数値を企業内外で共有できれば、社員であれば自社の売上だけにとどまらない存在価値や社会に対する貢献度の大きさを知ることができ、価値の共有による意識の向上、また品質や生産性の向上などが期待できる。また、社会における企業イメージの構築にも使うことができ、コーポレートアイデンティティを醸成する観点からも大きな効果が期待できる。


経済波及効果の計測は、企業の現在の生産活動のみならず、新規の企業立地や企業生産の拡大による経済波及効果を地域別に極めて単純でわかりやすい数値で示すことも可能であり、どの産業に属する企業でも計測は可能である。また、このような計測は、企業活動全体の効果だけでなく、特定の活動(例えば、スポーツイベントや文化的イベントの開催など)の効果を個別に計測することも可能だ。ぜひ、一度自社の経済波及効果を計測し、自社の生産活動等の社会に対する経済的影響力の大きさを把握してみてはいかがであろうか。

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