米国で高まるインソーシングの気運

先進技術による高付加価値の生産を目指す米国

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2015年07月28日

  • ニューヨークリサーチセンター 上野 まな美

サマリー

◆米国の企業は利益を追求するために、1990年代から労働コストの安い外国、特に中国においてアウトソーシングを拡大してきた。IT・コミュニケーション技術の進歩と貿易の自由化も並行し、アウトソーシングが拡大した結果、米国での製造業の雇用が大幅に減少した。


◆近年に入り、海外にシフトした生産拠点を米国に戻すインソーシングの気運が高まってきた。インソーシング増加の背景には、海外の労働コストの上昇、米国におけるエネルギーコストの低下などのコスト面の要素と、海外で生産するリスクや米国の労働生産性の向上などの非コスト面の要因が挙げられるが、米国政府による政策的後押しが大きい。


◆米国政府は、2011年に雇用を米国に戻すために米国内における投資拡大を目的とした初の連邦政府プログラムとなる「Select USA」に着手した。また、2012年には官民パートナーシップの全国製造イノベーションネットワーク(Nationwide Network for Manufacturing Innovation:NNMI)の研究所を設立し、10年間にNNMIの研究所を45ヵ所設立することを目標としている。米国は、高付加価値の製品と先進技術に対する投資・生産を行い、国際的に競争できる製造業を米国経済が必要としていることを認識し始めたと言えよう。


◆インソーシングによる仕事の大半は、設備投資と先進技術の導入による高付加価値の生産であり、米国の製造業における大幅な雇用の増加にはつながりにくい。しかしながら、長期的には先進サービスの先駆者である米国へとインソーシングが拡大され、資本集約型の生産経済へと更に進行することが予測される。製造業が米国に回帰することにより、米国経済の活性化とイノベーションの推進につながることが大いに期待される。

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