日本経済見通し:東日本大震災後の日本経済の構造変化と今後の政策課題

「クラウディングアウト」阻止に向け、供給側の政策強化と財政規律の維持を

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2011年06月20日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸

サマリー

経済見通しを改訂:2011年1-3月期GDP二次速報を受け、2011-12年度の成長率見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2011年度が前年度比▲0.3%(前回予想:同▲0.3%)、2012年度が同+3.4%(同:同+3.4%)である。日本経済は、当面下振れ圧力の強い状態が続くものの、2011年度下期以降は、復興需要に支えられて回復軌道を辿る見通しだ。

東日本大震災が日本経済に与える影響:東日本大震災は、基本的に3つのルートを通じて2011年度の実質GDPを1.2%程度押し下げる。当社のメインシナリオでは、(1)サプライチェーンの寸断による生産減(2011年度の実質GDPの押し下げ幅:▲0.6%)、(2)電力不足による生産減(同:▲0.1%)、(3)消費者マインド悪化等による個人消費の下振れ(同:▲0.5%)、という3要因を織り込んでいる。他方で、2011年7-9月以降は、復興需要が実質GDPを下支えする見通しである。現時点では、2011~2015年度にかけて、復興需要が実質GDPの水準を平均+0.8%ずつ下支えする展開を想定している。さらに、2011年1-3月期の実質GDP成長率が下振れし、震災発生前の当社予想と比べ、所謂「成長率のゲタ」が0.9%ポイント低下したことを勘案すると、東日本大震災による、2011年度の実質GDP成長率に対する押し下げ幅は▲1.4%程度と見られる。

東日本大震災後の日本経済の構造変化と今後の政策課題:今回のレポートでは、東日本大震災後の日本経済の構造変化と今後の政策課題について考察した。東日本大震災の発生を受け、日本経済を取り巻く環境は、(1)財政赤字の拡大、(2)経常黒字の縮小、(3)「円高」から「円安」、(4)「デフレ」から「インフレ(若しくは『スタグフレーション』)」、(5)長期金利は「低下」から「上昇」、という5つの構造変化を起こす可能性がある。今回の震災の様な「供給ショック」が起きた際に最も警戒すべきは、「クラウディングアウト(大量の国債発行により金利が上昇し、民間の経済活動が抑制されてしまうこと)」の発生である。今後、政策面では、(1)経済の「供給サイド」の政策(電力不足問題の解決、規制緩和、法人税減税、環太平洋経済連携協定への参加等)と、(2)「財政規律」の維持が、従来以上に重要となろう。

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