サマリー
男女の所得格差は、労働力という希少な資源の非効率な配分(低い全要素生産性)を示唆するだけでなく、女性の労働参加の意欲低減、家計所得の減少など、日本経済全体に悪影響を及ぼす点にも問題がある。またその格差が広がるきっかけは出産・育児である可能性が高い。そこで、出産・育児により所得格差が生まれるというChildPenalty(CP)の視点から、第一子の出産が女性の就業率、賃金、労働時間に与える影響を、個人レベルのパネルデータとイベント・スタディという定量的手法を用いて分析した。その結果、就業率で約30%、賃金で約50%、労働時間で約50%の低下・減少が見られた。日本ではCPが長期的に持続し、男女の所得格差の大きな要因となっている。
CP縮小の手段としては家族政策(FFP)が典型的だが、海外の先行研究ではFFPのみでは効果が限定的であることが指摘されている。FFP拡充に加え、働き方改革、労働市場の構造改革、男性の意識・行動改革などの多面的なアプローチが必要だと考えられる。日本で男女の所得格差を是正するには、子育てにかかる金銭的・時間的なコストを社会全体のものと認識し、母親のみならず、男性や企業なども子育てコストを担うという覚悟が必要だ。

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