サマリー
◆内需の拡大によるGDPの増加が輸入の増加によって相殺される効果が近年強まり、生産を誘発する効果が弱まっている。本稿では、輸入が増加した品目を整理した上で、輸入が増加した背景として考えられる、①日系企業の生産移転(逆輸入の増加)、②人手不足による供給制約、③国際競争力の低下、の3つの仮説について検討する。
◆近年輸入が増加したのは情報・通信技術(ICT)製品が中心である。最終財の輸入浸透度(総供給に占める輸入の割合)の上昇は、日系企業の生産移転に加えて、ICT製品の国際競争力の低下によって輸入が増加したことによるところが大きいとみられる。同製品における米国・中国企業の世界シェアは圧倒的に高く、日本企業のシェアはほとんどの製品で一桁台にとどまる。
◆海外製品への需要が増加し、輸入浸透度が上昇するということは、内需が増加しても輸入の増加に相殺される形でGDPが増加しにくくなることを意味する。ICT製品への需要の増加はこうした流れを加速させるとみられる。しかし、長期的には経済にプラスの効果をもたらすことを見逃すべきではない。国内製か海外製にかかわらず、企業がより安価で高品質な設備等を利用することは、提供する商品やサービスの質を高め、コストを引き下げることにつながる。消費者にとっても、安くて高品質な商品やサービスを手に入れる機会が増えることになる。企業の事業活動が効率化し、収益力が高まる側面を踏まえると、輸入浸透度の上昇はそれほど悲観するべきことではないだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年3月雇用統計
失業率は上昇するも、求人倍率が上昇するなど雇用環境は悪くない
2025年05月02日
-
消費データブック(2025/5/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年05月02日
-
2025年1-3月期GDP(1次速報)予測 ~前期比年率+0.5%を予想
外需が下押しも内需は堅調/小幅ながら4四半期連続のプラス成長
2025年04月30日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日