日本経済見通し:2018年1月

リストラなくして賃上げなし / 内需の好循環を阻む「底辺への競争」

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2018年01月23日

  • 小林 俊介

サマリー

◆日本の賃金デフレの要因として、①国際競争の激化、②潜在的スラックの存在、③労働生産性の伸び悩みの三つが挙げられる。このうち①については「現時点の為替レートが維持され」、かつ「中国における賃金上昇が続く限りは」、という前提条件つきではあるものの、脱却の可能性が近づいている。②も同様に、失業率は自然失業率近辺に接近し、かつ、正規化の流れの中で雇用の質も改善に向かっており、遠からぬ将来の解消の兆しが見え始めた。従って、今後持続的な賃金上昇が発生するか否かは生産性の向上次第ということになる。


◆しかし「生産性」という言葉には二義性があり、生産性向上に向けた処方箋を巡っては議論が錯綜している。労働生産性は資本装備率と全要素生産性の二つの要因で規定されるが、資本装備率の蓄積ペースは、全要素生産性の上昇率次第で一意に決定される従属変数だ。従って本質的な処方箋は全要素生産性を向上させる教育と雇用流動化となる。前者に対する取り組みは徐々に進展しているものの、後者について目立った進展は見られない。長期的な視座に立てば、これが持続的な賃金上昇の実現を阻む問題として残される公算が大きい。


◆他方で日本だけでは如何ともしがたい世界的な潮流が存在することもまた事実である。その最たる例が「底辺への競争」であり、その結果としての労働分配率の持続的な低下である。グローバリゼーションの進展と並行して、先進国を中心として各国政府は為替レートの切り下げ(近隣窮乏化)による人件費の抑制、法人減税や設備投資減税による資本コストの抑制と同時に付加価値税(消費税)の引き上げを行うなど、重商主義的な政策競争を続けてきた。これらはいずれも、企業所得の改善と引き換えに、家計の実質所得を損なう政策であり、その果てに待っているのは労働環境や社会福祉の「底辺への競争」となる。政策のリバランスに向けた国際協調の議論が望まれる。

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