サマリー
◆製造業の海外設備投資比率は、2010年から2013年まで増加を続けた後、2014年には横ばいとなり、2015年から減少傾向となった。2015年以降海外設備投資比率が減少傾向となった背景には、2013年以降の円安による日本の国際貿易における競争条件の改善があったと考えられるが、2015年後半以降、為替レートのトレンドに再び変化が見られる。
◆2015年後半以降円高が進んだ後、減税政策を公約したトランプ氏が米国の大統領選挙で当選したことから、米国の長期金利が上昇し、再び円安が進んでいる。トランプ新大統領が実際に減税政策を取る場合には、米国の経常収支赤字の拡大につながる可能性が高いが、過去米国で経常収支赤字が拡大した際には、一定期間円安が維持されて経常収支赤字が蓄積された後大幅な円高となっており、現時点で円安が進んでいるからといって、日本の国際貿易における競争条件が中長期的に改善するだろうと考えることは、時期尚早である。トランプ氏は、国内の製造業を保護するための貿易政策も公約しており、早いタイミングで円高になったり、米国による輸入制限措置が拡大、強化されたりする可能性もあり、そのことにより米国への輸出を米国内の現地生産に切り替えることが必要となる可能性もある。
◆日本の国際貿易における競争条件を示す指標である円の実効為替レートの算出においては、USドル/円レートより元/円レートの方がウエイトが高くなっている。USドル/元レートが2015年後半以降元安傾向となっていることが、円の実効為替レートを上昇させ、日本の国際貿易における競争条件を低下させる方向に働いている。
◆USドル/元レートの元安は、「誤差脱漏」及び「金融収支(外貨準備増減を除く)」の赤字が「経常収支」の黒字を上回っていることが主因であり、中国政府が外貨売り・人民元買いの為替介入を行って外貨準備を減らしているにもかかわらず進行している。中国政府は多額の外貨準備を保有しているので、今後も人民元レートを管理し続けられる可能性が高いとは見られているが、USドル/元レートは今後も元安が続く可能性が高く、そのことが日本の国際貿易における競争条件を低下させる方向に働き続ける可能性が高いことも、日本の製造業が海外現地生産の可能性を検討することの重要性を、再び高めている。
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