サマリー
◆世界金融危機以降、足元での世界の財貿易の成長は鈍化している。その要因は景気循環的なものか構造的なものか。貿易を簡単なモデルで定式化することで検証した結果、その過半が構造的要因による貿易のGDPに対する長期的な感応度の弱まり(長期弾力性の低下)で説明されることが示された。
◆この結果を用いた今後の世界貿易の成長見通しは、長期的に世界のGDPが1%増加すると貿易が0.9%増加するというもので、2000年代の世界金融危機以前のペースの半分程度となる。
◆貿易のGDPに対する長期弾力性の低下の根は深く、2000年代に入ってから既に確認できる。様々な要因が挙げられる中、1990年代に入って発展し、貿易成長を加速する原動力となったとされるグローバル・バリュー・チェーン(GVC)の動きを確認した。GVCは、2000年代に入って減速しながらも世界金融危機前まで拡大を続けた。世界金融危機で一時縮小した後V字回復したが、足元では再び縮小傾向にある。
◆足元でのGVCの縮小は、同時期での長期弾力性の低下に対する説明となりうる。しかし、2000年代に入ってからの長期弾力性の低下に対しては、その間もGVCが拡大していたことから有力な説明とはならないだろう。他の構造的要因でこの説明となりうるのは、2000年代に入って耐久財貿易シェアが低下を始めたことや貿易摩擦の減少傾向が一時止まったことなどであるが、これらについてはGVCの動きと合わせてより詳細な調査が必要である。
◆一方で、循環的要因と考えられる世界経済の低成長からの脱却にも長期戦が強いられるだろう。これら循環的、構造的要因が絡み合いながら世界貿易成長の足を引っ張っている状況であり、今後の貿易成長の見通しは明るいとはいえない。
◆このような状況の中、貿易成長の不振に対する突破口を開けるか。各国は積極的な金融政策を行うことで景気回復を試みているが、それに加えて、政策当局が貿易摩擦を減少させる施策を実施するなど、貿易成長の両輪に対するアプローチがカギを握る。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年5月機械受注
民需(船電除く)は小幅に減少したが、コンセンサスに近い結果
2025年07月14日
-
国内旅行消費、押し上げの鍵は「分散化」
国・自治体・企業の連携で旅行の時期を分散し費用減と混雑の緩和を
2025年07月11日
-
経済指標の要点(6/18~7/11発表統計分)
2025年07月11日
最新のレポート・コラム
-
令和6年金商法等改正法 公開買付制度の改正内容の詳細
30%ルール適用除外となる僅少買付け等は0.5%未満の買付け等に
2025年07月15日
-
総会前開示の進展と今後求められる取組み
2025年3月期決算会社では約6割が総会前開示を実施
2025年07月15日
-
「九州・沖縄」「北海道」など5地域で悪化~円高などの影響で消費の勢いが弱まる
2025年7月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年07月14日
-
2025年5月機械受注
民需(船電除く)は小幅に減少したが、コンセンサスに近い結果
2025年07月14日
-
中央値で見ても、やはり若者が貧しくなってはいない
~20代男女の実質可処分所得の推移・中央値版
2025年07月14日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日