サマリー
◆本稿では、以下の3つの論点について検討する。第一に、第2次安倍政権が発足した2012年末頃からの消費者物価の推移について、政策イベントを踏まえながら概観する。第二、物価関数を推計することによって、消費者物価の上昇が2014年夏頃から足踏みした要因を分析する。第三に、「大胆な金融緩和」から消費者物価への波及経路を再確認するとともに、市場の反応を通じて、今回の追加金融緩和の意味について考察する。
◆コアCPIは、2012年12月から翌年1月にかけて下げ止まり、2013年春から徐々に上昇へ転じた。消費者物価が2013年春以降緩やかな上昇を続ける下で、政府の2013年12月の「月例経済報告」において、消費者物価の基調判断から「デフレ」の文言が削除された。2014年夏頃からは、円安による物価の押し上げ効果が縮小し始め、消費者物価の上昇テンポは徐々に鈍化することとなった。現在、日本銀行の「物価安定の目標」の期限内での達成は困難な状況にあると考える。
◆物価関数の推計結果に基づくと、2013年春からの物価上昇局面では、4つ全ての要因がプラス方向に作用していた。コアCPIの上昇に最も寄与したのは、川上価格の企業物価・国内需要財価格要因であり、期待インフレ要因のプラス寄与も拡大傾向となった。さらに、GDPギャップ要因のマイナス幅が縮小し、定期給与要因も物価押し上げに作用した。しかし、2014年第1四半期以降は、企業物価・国内需要財の押し上げ寄与が縮小に転じたことから、コアCPIの上昇も徐々に足踏みした。
◆金融政策に対する市場の反応をまとめると、以下の3点が指摘できる。第一に、2014年10月末の追加金融緩和では、為替レートの減価や資産価格の上昇(株価上昇)に対する反応が大きい。特に、円安進行に伴う輸入物価の上昇が、今後の消費者物価の押し上げに寄与すると見込まれる。第二に、今回の追加金融緩和は、徐々に国債利回りの低下をもたらし、このことも為替レートの減価に寄与すると考える。第三に、日本銀行の見解とは異なり、追加金融緩和によって、原油価格の大幅な下落に伴う期待インフレ率の低下を支えることは、極めて困難だと考えられる。
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