円安で輸出が伸び悩む一つの背景

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2014年08月22日

  • 小林 卓典

サマリー

円相場の大幅な減価にもかかわらず、日本の輸出は伸び悩んでいる。もちろん円高が是正されていなければ輸出はもっと低迷していただろう。輸出が伸び悩む理由の一つは、世界経済が力強さを欠く貿易環境にある。新興国は全般に成長率を鈍化させ、欧州では牽引役のドイツが地政学的リスクの影響もあり失速気味となっている。もう一つの理由は、日本企業の海外現地生産の拡大にあり、これはアジア諸国の関税制度とも関係している。日本の基幹産業である自動車の輸出台数は、リーマン・ショック前のピーク比で約40%減少している。自動車の現地生産と販売台数は、すでにアジアが米国を大きく上回っているが、インド100%、タイ80%、中国の25%など、アジアの主要国は完成車輸入に高関税を課している。そのためアジア自動車市場の成長に対して、輸出ではなく現地生産の拡大で対応するのが合理的な選択となる。さらに自動車部品も輸出に代わり現地調達が大幅に増えている。これは円安が輸出の拡大を促す景気回復のルートの一つが、過去のように機能しなくなったことを意味している。

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