サマリー
◆財政状況の分析には通常、予算書・決算書等が使用されるが、必ずしも分析のために作られているものではなく、本稿は敢えてSNA統計中心に近年の財政の動向を分析する試みである。
◆その結果、まず、一般政府を見ると、支出面では、社会保障給付は高齢者人口の増加に伴い増加を続けてきた一方、1990年代半ば以降は、総固定資本形成の大幅減や、低金利による財産所得の支払(利子の支払)の減少等により、支出の減少がもたらされた。しかし、2000年代後半以降は、こうした支出減要因が弱まり、リーマン・ショック以降は総固定資本形成も増加に転じたことなどから、支出は再び増加を続けた。
◆一方、収入は1990年代に入ってから支出を下回るようになり、1998年頃からの賃金・俸給の低迷に伴う強制的社会負担の低迷、同じく1998年頃からの名目GDPの低迷に伴う生産・輸入品に課される税の低迷、所得・富等に課される経常税の1990年代に入ってからの減税等による減少などにより収入は低迷を続け、大幅な財政赤字は継続した。なお、強制的社会負担の低迷や家計の納める所得・富等に課される経常税の低下には、生産年齢人口の減少は殆ど影響していない。
◆この結果、負債残高は累増を続けた。残高は、価格変動等によって影響を受ける部分も大きい。
◆社会保障関係を除く財政収支は最近は黒字になる時期もあったものの、社会保障関係は赤字の拡大が続いている。これが中央政府・地方政府からの移転により埋められているものの、その財源は税収では足りず公債金等で賄われ、国債・財融債と国庫短期証券で債務残高の4分の3を占める。
◆部門別に見ると、中央政府は、税を主な収入として、他部門への移転や債務の利払いが支出の多くを占め、全体調整的な色彩が濃い。地方政府及び社会保障基金への移転前では大幅な黒字であるが、移転後では大幅な赤字が続いている。債務残高も突出している。
◆地方政府は、税収に加えて中央政府からの移転収入を得ながら、社会保障以外の最終的政府支出の主な主体となっている。中央政府からの移転(及び社会保障基金への移転)前では、大幅な赤字が続いているが、移転後では最近は黒字である。
◆社会保障基金は、高齢者数の増加に伴い支出が大きな増加を続ける一方、強制的社会負担収入や財産所得がこれに追い付かず、中央政府や地方政府からの経常移転等により賄っている姿となっている。中央政府・地方政府からの移転前では、1990年代初めまではほぼ収支均衡していたが、それ以降、徐々に赤字幅が拡大している。移転後では、2000年度ころまでは黒字であったが、近年は赤字基調となっている。
◆今後については社会保障が最大の問題である。65歳以上人口は、2016年度までは2%を超える増加を示すが、その後、増加率は急速に落ちていき、殆ど増加しなくなり、2043年度以降は減少に転ずると予測されている。一方、生産年齢人口は、将来は基本的には1%を超えるスピードで減少すると予測されている。こうした中、強制的社会負担のみでの収支均衡は、一層の給付総額抑制とともに、生産年齢人口一人当たり給与・俸給が2%程度は増加を続ければいずれは達成可能である。しかし、強制的社会負担で賄えなかった分は、中央・地方政府からの移転等によって一部賄われるにしても、収支均衡までは累積し、結果として一般政府全体の債務残高は増大を続けるおそれがある。
◆一方、社会保障基金への純移転元である中央・地方政府を見ると、最近は、社会保障以外の部分のプライマリー・バランスの黒字もほぼなくなる一方、社会保障基金への純移転によるプライマリー・バランスの赤字は基本的に拡大を続け、結果として国・地方のプライマリー・バランスも大幅な赤字となっている。2011年度のプライマリー・バランスを2015年度までに半減するとの政府目標は、消費税率が5%引き上げられれば達成される可能性はあるが、2020年度に黒字化との目標達成は、このままでは絶望的である。
◆このように、SNA統計により分析することにより、我が国財政を総合的・整合的に見ることが可能である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
消費データブック(2024/5/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2024年05月02日
-
FOMC 利下げ開始の先送りを示唆
再利上げには消極的、2024年内の利下げ開始は明言せず
2024年05月02日
-
少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実
持分法適用関係についてもCG報告書開示を要請
2024年05月01日
-
ユーロ圏はテクニカルリセッションを脱出
1-3月期GDPは前期比+0.3%、市場予想から上振れ
2024年05月01日
-
新興国通貨安は脱炭素に向けた投資の障害に
~通貨バスケットに連動する債券(WPU連動債)で為替リスクを低減~
2024年05月08日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日