サマリー
◆2014年のクリミア半島併合に続き、ロシアが再びウクライナに対する武力侵攻に踏み切る可能性が高まっている。米国を中心に西側諸国は、対話を通じて武力衝突を回避しようとしているが、現段階では交渉は手詰まりに陥っている。ただしそもそもウクライナ南部に位置する黒海での軍備拡大を先に行ったのはNATO側との見方もできる。プーチン大統領は2021年11月に、NATOの東方拡大をやり玉にあげ、欧米が超えてはならない一線、「レッドライン」について言及している。
◆バイデン政権はロシアがウクライナに武力侵攻した場合、かつてないほど厳しい経済的制裁を課すと警告している。ロシア金融機関のSWIFTへのアクセス切断は、西側制裁のいわば最終兵器とみなされており、バイデン政権も慎重にその言及を回避していた。SWIFTへのアクセス切断は対イラン制裁で使われ、それなりの効果を示した。しかし、ロシアはクリミア併合後、世界的な制裁の対象となり、それが現在も続いているため、それなりの対処法を身に着けてきている。一方、制裁による西側諸国への副作用も否定できない。米国は新しいドイツ連立政権に対し、ロシアからのガスパイプラインであるノルドストリーム2の承認を中止するよう圧力をかけている。
◆バイデン大統領は1月19日にワシントンで開かれた記者会見で、ロシアがウクライナに侵攻した場合には、即時に多大な代償を払うことになると述べた。ただし、ロシアはソ連時代のルーブル経済圏での国家運営の蓄積もあり、西側諸国からの制裁下でも支障なく経済的自立ができる状況にある。それに加えて、様々な対策が功を奏したため既に制裁の効果は乏しく、その副作用であるエネルギー価格高騰だけが独り歩きする可能性は否定できない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 追加関税の影響が顕在化
米国向け輸出が急減、対米通商交渉の行方は依然不透明
2025年06月24日
-
欧州経済見通し 対米通商交渉に一喜一憂
米英合意、米中間の関税引き下げは朗報、EUの交渉は楽観視できず
2025年05月23日
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日