サマリー
◆11月4日、英国中央銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)は、既存の金融政策スタンスが引き続き適切と判断し、政策金利を0.1%で据え置く決定をした。この1カ月、ベイリー総裁や一部のMPC委員から利上げを示唆する発言が続いていただけに、この発表は多くの投資家にとってはサプライズとなった。金融市場では2018年以来となる利上げの実施となり、金利が0.25%まで上がると確信していただけに、更なるインフレへの懸念が生じている。欧州中央銀行(ECB)に続き、BOEも利上げに躊躇する姿勢が明確になるにつれ、金融市場は中央銀行がインフレ制御できないものと捉え、債券価格のボラテリティが大きくなっている。
◆BOEは、利上げを見送ったもう1つの理由に、エネルギー価格を巡る不確実性の大きさを挙げている。BOEは2022年4月までにOfgem(英国ガス・電力市場局)がさらにガス料金を35%、電気料金を20%程度引き上げると予想している。ただ英国では過去20年で、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーへの移行を加速させており、これによりBOEは長期的な見通しに関して確信を持てずにいる。温室効果ガス・ネットゼロ前倒しなどの野心的な公約は化石燃料インフラ投資の減少に拍車をかけ、急速なグリーンシフトによって、意図しないままにグリーンフレーションを誘発する可能性が高い。
◆今回のインフレは当初、持続的な現象というよりは、物価レベルの一時的な変化で、輸入物価経由のコストプッシュ型インフレとみなされていた。現在ではインフレ誘発の要因は、急速な脱炭素による意図せぬ副次的影響や当初の想定より長引いている供給サイドの混乱とされ、インフレがこのまま収束するとは限らないと懸念されている。現在英国グラスゴーで開催されているCOP26で議論される脱炭素政策には、グリーンフレーションに対する懸念を含め、より柔軟な政策を議論する必要性があると言っても過言ではない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日