仏極右政権の財政政策リスクがEUに突きつける課題

フランス版トラスショックか、第2次ギリシャ債務危機の再来か?

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  • 菅野 泰夫

サマリー

◆6月30日、フランス国民議会(下院)選挙の第1回投票が行われ、バルデラ党首率いる極右政党「国民連合」が首位となり、マクロン大統領率いる中道政党「再生」を中心とした与党連合は3位に沈んだ。7月7日の決選投票でも国民連合が勝利して議会での過半数を握れば、バルデラ党首の首相就任はほぼ確実となる。フランスは大統領の所属政党と下院の多数党が一致すれば大統領の権力は強大化するが、ねじれ(コアビタシオン)が生じた場合は下院の力が強くなる。

◆政権獲得が視野に入ったバルデラ党首は、金融市場の懸念緩和を狙い、財政拡張路線の現実的修正なども示唆しているが、具体的な財政計画が不透明なままであり、国民連合に対する金融市場の不信感は依然として根強い。与党連合のルメール財務相は、国民連合が議会選で勝利し公約を実施した場合、英国の「トラスショック」に類似した債務危機に陥る可能性があると警告した。大和総研の試算では、トラス前首相の減税案が実施されていれば英国の財政赤字額は6割以上増加していたと見込まれる。国民連合の公約実現時にフランスで予想される財政赤字拡大幅も、これとほぼ同程度である。

◆国民連合政権の誕生後、EUとの緊張関係が生じてフランス国債金利が急騰した場合、欧州中央銀行(ECB)は高債務国の国債を無限に買い入れるTPI発動を示唆しつつ国民連合政権に政策変更を迫る可能性がある。この状況は2015年の第2次ギリシャ債務危機を彷彿とさせるが、EU中核国であるフランスはギリシャと異なり、ECBやEUによる大幅な政策修正要求は往々にして難航し、第2次ギリシャ危機以上の金融市場の混乱の可能性も否定できない。

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