2021年11月30日
サマリー
◆コロナ禍におけるマネーフローの動向を国際収支統計の金融収支から見ると、依然として金融収支の黒字(対外資産の純増)は続いているものの、コロナ禍前と比べ黒字額は減少している。内訳を見ると、直接投資については取得超幅が2020年第2四半期に12年ぶりに1兆円を割るなど、投資を抑制する動きが確認できた。また、証券投資についても2020年第2四半期以降6四半期連続で処分超を記録している。全体的なマネーフローの動向としては、コロナ禍において国内に資金が集積・滞留する動きがあったことがうかがえる。
◆直接投資(ネット)では、対外直接投資の取得超幅(移動平均値)が縮小している。背景には、コロナ禍の影響で国内外の移動が制限されたことや海外経済の不透明感が増したことで、日本企業の事業拡大意欲が抑えられたことがあると推測される。
◆証券投資(ネット)では、コロナ禍以前とは一転して対外証券投資における株式・投資ファンド持分の処分超が続くようになり、対内証券投資が2020年第2四半期以降6四半期連続で流入超となるなど、コロナ禍における資金の国内への集積・滞留の傾向が明確である。日米金利差の縮小、新型コロナウイルス変異株(デルタ株)の感染拡大による景気回復の後ずれ懸念を受けてのリスク回避等が背景にあると考えられる。
◆本稿では、コロナ禍において①日米の金利差の動向が証券投資に影響を与えたこと、②新型コロナウイルスの感染動向が金融収支および各投資の動向に影響を与えたことを説明した。この2点を基に金融収支動向の先行きを考察すると、①金利差拡大に伴う対内証券投資の流入超幅の縮小、②新型コロナウイルスの新たな変異株(オミクロン株)の感染拡大による対内・対外投資の不活発化の可能性が考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
日銀のETF売却とスチュワードシップ責任
超長期投資家となる日銀のスチュワードシップ責任の果たし方
2025年09月26日
-
日本銀行がETF・J-REITの市場売却を決定
100年以上かけた超長期売却計画には備えが必要
2025年09月22日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日