2017年10月18日
サマリー
◆EU加盟国では2018年1月3日から、第2次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)の施行が予定されている。その中でも、従来の投資銀行やブローカー(日本の証券会社に該当、以下、投資銀行)の株式・債券取引の慣例である、リサーチ費用を取引執行手数料に含めて請求することを禁止する、“アンバンドリング(分離明確化)”の導入が、投資銀行のリサーチ部門のビジネスモデルの根幹を揺るがす事態になるとみられている。
◆これまで無料とみなしてきたリサーチ費用の設定をめぐり、2017年の秋以降、あわただしい交渉が投資銀行と運用機関の間で繰り広げられている。ケーブルテレビの視聴料のように「基本料金のみ」から「従量制」、「(無制限のミーティングなど全部込みの)プレミアムパッケージ」など多くの形態が投資銀行から提案されている。ただし、各行とも当該規制への対応を急いでいるものの、業界として未だに統一した形式は確立されていない。
◆MiFIDⅡ適用開始前に、投資銀行は市場シェア拡大を目的としたリサーチの価格競争に突入しており、リサーチ価格は下落の一途をたどっている。さらに想定していた金額でのリサーチ販売は順調とはいい難く、9月以降続々と、MNMBの名のもとに自社のウェブサイト等でマクロ経済・FICCレポートに限り公開に踏み切る投資銀行が急増している。
◆過去数十年にわたり、リサーチチームを花形として扱ってきた各投資銀行への影響は深刻であろう。アナリストランキング上位の優秀なエコノミストやアナリストは時としてメディア露出を頻繁に行い、報酬面も含めてスターのような扱いを受ける場合も多い。ただMiFIDⅡの施行により、リサーチ評価の多寡により発注量が変わるブローカー評価や、アナリストランキング自体がなくなる可能性もある。目に見える評価軸が減少するとともに、これまでの厚遇がなくなる事態も示唆されている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える
DOEは機械や化学で、累進配当は卸売業や銀行業での採用率が高い
2025年09月11日
-
特別配当・記念配当の動向と株価への影響
毎年1割程度が特別・記念配当を実施、株価押し上げ効果は短期的
2025年09月09日
-
意見分かれるグロース市場の上場維持基準見直し案
2025年9月に制度要綱が公表予定
2025年07月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日