POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)の製造及び使用の廃絶、排出の削減、これら物質を含む廃棄物等の適正処理などを規定している条約。正式名称は“Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants”(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)で、略して「POPs条約」、「ストックホルム条約」などと呼ばれている。
POPsとは、人や生物への毒性があり、環境中で分解されにくく(難分解性)、生物体内に蓄積しやすく(生物蓄積性)、大気や水、移動性の種を介して長距離を移動することで遠く離れた国の環境にも影響を及ぼす恐れがある化学物質のこと。POPsは、偏西風やグラスホッパー現象(※1)などにより国境を越えて移動すると考えられており、過去に使用実績のない高緯度地域に生息するアザラシから検出されるなど、製造国や使用国だけの問題にとどまらない。
このような地球環境全体への国際的な意識の高まりにより、1992年の地球環境サミットで化学物質対策も含めた地球環境問題の解決に向けて「アジェンダ21」がとりまとめられた。これを受けて、1995年に国連環境計画(UNEP)政府間会合が開催され、「陸上に起因する活動からの海洋環境保護に関する世界行動計画(GPA)」とワシントン宣言を採択。特に早急な対応が必要であると考えられる12のPOPsの減少に向けて、これらの物質に対する国際的な枠組みを確立することが求められた。1997年のUNEP第19回管理理事会を契機として5回の政府間交渉委員会が開催され、2001年5月にストックホルムで開催された外交会議においてPOPs条約が採択された。条約の発効は、2004年5月となっている。
[条約の概要]
・PCB(ポリ塩化ビフェニル)など、条約の附属書Aに掲載されている物質は、製造・使用、輸出入を原則禁止。
・DDT(マラリア予防に使用)など、附属書Bに記載されている物質は、特定の目的・用途での製造・使用に制限。
・ダイオキシン類など、附属書Cに記載されている非意図的生成物(※2)は、できる限り廃絶することを目標として削減。
・POPsを含んでいるストックパイル(在庫)や廃棄物の適正な管理と処理。
・上記への対策に関する国内実施計画の策定。
・POPsに関する調査研究、モニタリング、情報提供、教育や、途上国に対する技術・資金援助の実施など。
日本など条約の締約国は、対象となっている物質について、各国がそれぞれ条約を担保できるように国内の法令等で規制することになっている。また、対象となる物質については、POPsの検討委員会(POPRC:Persistent Organic Pollutants Review Committee)において議論されたのち、締約国会議において決定される手続きとなっている。
[参考資料]
POPs条約事務局
環境省「POPs」
経済産業省「POPs条約」
外務省「ストックホルム条約(POPs)」
(※1)熱帯や亜熱帯、温暖な地域で環境中に排出されたPOPsは、揮発等により大気中に拡散し、大気の流れに乗って高緯度の地域へと移動する。そして高緯度地域での寒冷な気候により地表面への降下・堆積が進み、その地域の環境汚染を引き起こすと考えられる。このような大気によるPOPsの拡散は、飛び跳ねて移動するバッタの動きに似ていることからグラスホッパー現象(グラスホッパー効果)と呼ばれている。
(※2)廃棄物の焼却時などに、意図することなく生成されてしまう物質。
(2013年6月7日掲載)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連キーワード
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日