大気中の二酸化炭素(CO2)の濃度変化を表す方法の一つとしてキーリング曲線(Keeling Curve)がある。キーリング曲線は、世界で初めてCO2濃度を高精度に連続観測して、CO2濃度の上昇トレンドを発見した米国の地球化学者、チャールズ・キーリング博士に因んで名づけられたものである。CO2は温室効果ガスを代表するガス種の一つで、今日では地球温暖化の進行度を示す重要な指標の一つとして用いられている。キーリング博士が始めたカリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所の「スクリプスCO2計画」(※1)は、北極圏から南極を結ぶ13の地点(※2)でCO2濃度を観測する計画で、博士亡き後、現在も続けられている。
図表は、スクリプスCO2計画で、1958年3月から2013年2月までに、ハワイのマウナ・ロア観測所で観測されたCO2月平均濃度のキーリング曲線である。1959年には年平均濃度は316.0ppm(1ppmは100万分の1)であったが、2012年には393.8ppmに達した。大気中のCO2濃度が増加する原因は、人為活動に伴う化石燃料の消費等によるCO2の排出分が、植物や海洋等によるCO2の吸収分を上回り、残りが大気中に蓄積されることである。昔(1959~1968年)の増加幅は約0.8ppm/年だったが、ここ10年(2003~2012年)の増加幅は約2.1ppm/年に拡大している。
図表の拡大図は、2012年の1年間のCO2月平均濃度を拡大したものである。CO2月平均濃度は、植物活動の影響によってジグザグした季節変化を示す。CO2濃度の季節変化は、日射が強くなる季節に植物の光合成が活発になってCO2の吸収が促進されることと、気温の上昇とともに土壌有機物の分解や動植物の呼吸などによってCO2の放出が増加することや、人為起源のCO2の排出量が増減することなどが影響し合って生じていると考えられている。マウナ・ロアでは、5月に高く、10月に低くなり、その差は約5.8ppmである。
CO2をはじめとする温室効果ガスの濃度観測は、今では日本を含めて世界中の観測機関や研究者が世界各地で行っている(※3)。集められた観測データからは、温室効果ガスの濃度が一様でないこともわかってきた。工業等の人為活動が盛んな先進国が集まっている北半球は南半球よりも濃度が高く、同じ緯度でも陸地の方が海上よりも高い。また、季節変化は、陸地が広く分布しており光合成を行う植物が多い北半球の方が大きいこともわかってきた。世界各国の協調のもとで組織的に観測・分析される温室効果ガスの濃度変化は、地球温暖化に科学的な根拠を与え、各国が気候変動対策に取組むことにつながっている。
(※1)スクリプスCO2計画ウェブサイト
(※2)観測地点は順次増やされ、米国以外では、カナダ、メキシコ、米国領サモア、豪州領クリスマス島、ニュージーランド、ニュージーランド領ケルマディック諸島、南極などに点在している。
(※3)例えば、世界気象機関全球大気監視計画 温室効果ガス世界資料センター
(2013年5月23日掲載)
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