正式名称は、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」で、「化学物質排出把握管理促進法」または「化管法」と略称されている。有害なおそれのあるさまざまな化学物質の環境への排出量等を把握することなどで、化学物質を取り扱う事業者の自主的な化学物質の管理の改善を促進し、化学物質による環境の保全上の支障が生じることを未然に防止することを目的として、1999年に制定された。
本法が対象とする化学物質は、人の健康を損なうおそれ、または動植物の生息や生育に支障を及ぼすおそれがあるもの、オゾン層を破壊することで紫外線の地表に到達する量を増加させることにより人の健康を損なうおそれがあるものなどとされている。また、環境中に広く継続的に存在するものを「第一種指定化学物質」、製造量の増加等があった場合には環境中に広く存在することになると見込まれるものを「第二種指定化学物質」と定めている。2008年の化管法施行令の改正により、第一種指定化学物質は462物質が指定され、そのうち発がん性、生殖細胞変異原性及び生殖発生毒性が認められる15物質が「特定第一種指定化学物質」に指定されている。第二種指定化学物質は、100物質が指定されている。
本法では、指定された化学物質を扱う事業者に対する2つの制度が定められている。
・PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出)制度
第一種指定化学物資を対象とし、業種、従業員数、対象化学物質の年間取扱量で一定の条件に合致する事業者は、大気、公共用水域、土壌などの環境中への排出量や、廃棄物としての移動量についての届出が義務付けられている。事業者による届出は都道府県を通じて国に集められ、国が推計するその他の排出源(家庭、農地、自動車など)からの排出量と併せて公表されている。PRTR制度の対象となる製品(取扱原材料、資材等)の要件は、対象化学物質を1質量%以上含有する製品(※1)で、代表的なものとして化学薬品、染料、塗料、溶剤などがある。また、国はPRTRの集計結果などを踏まえて、環境モニタリング調査や、人の健康や生態系への影響についての調査を行うとされている。
・SDS(Safety Data Sheet:安全データシート)制度
第一種指定化学物質と第二種指定化学物質を対象とし、事業者はこれら化学物質やそれを含む製品を他の事業者に譲渡・提供する際に、その相手方に対して化学物質の成分や性質、取り扱い方法などに関する情報(SDS)を事前に提供することが義務付けられている。2011年度までは、国内では「MSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)」と呼んでいたが、国際的な整合性を図るためGHS(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム)で定義されているSDSに統一された。
(※1)当該製品の質量に対する対象化学物質の質量の割合が1%以上の製品が対象となる。また、特定第一種指定化学物質は0.1質量%以上含む製品が対象となる。
[参考資料]
下記の各省のWebページに、化学物質排出把握管理促進法に関連する各種の情報が掲載されている。
経済産業省「化学物質排出把握管理促進法」
環境省「PRTRインフォメーション広場」
(2013年3月29日掲載)
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