米国抜きでは進めないパリ協定

残留条件は削減目標の調整を許容することか

RSS

2017年06月20日

  • 大澤 秀一

サマリー

◆トランプ米大統領がパリ協定からの脱退を表明し、同時に再交渉を始めて公平な条件が得られれば再加入するか、あるいはまったく新規の協定作りを始めるとした。パリ協定の実施指針は未だ策定されていないため細則上の交渉は可能だが、既に国際条約として発効した枠組そのものの再交渉に他の締約国が応じるとは考えにくいことから、このまま行けば米国は脱退の道を進むと思われる。


◆トランプ政権は発足時に「米国第一エネルギープラン」を掲げた。同プランの概略は、「エネルギー産業の重荷となっているオバマ前政権の気候行動計画等の有害で不必要な環境規制を排除し、すべての国内エネルギー資源を活用することでエネルギーの独立と安全保障を確保する」ことといえる。大統領令等によって既に規制当局が規制見直しを始めており、世界第2位の温室効果ガス(GHG)排出量国である米国はパリ協定の削減目標に無頓着な国になっている。


◆米国がパリ協定から脱退すれば、国連気候変動会議における米国及び米国をリーダーとしているアンブレラ・グループの発言力が低下する。他方、先進国の中では京都議定書で主導力を発揮したEUの影響力が強まる可能性がある。また、途上国の中ではパリ協定の採択や発効に貢献した中国の影響力が強まることが予想される。気候変動問題における先進国の歴史的責任を追及し、途上国における緩和(GHG排出削減)や適応(気候変動の影響への対応)に必要な資金支援と技術移転を求める途上国の考え方は根強く残っている。EUと中国を軸とする交渉の先行きが注目される。


◆世界全体のGHG排出量を削減するためには世界第2位の排出国である米国の参加は欠かせない。そのため、米国が実際に脱退を通知するまでは各国の説得が続くと思われる。米国を引き留める方策としては、削減目標を達成可能な水準に“調整”することを許容することが考えられる。


◆米国を含むすべての国々は、パリ協定が衡平性と実効性を追求できる唯一の国際枠組であることを改めて認識する必要があろう。それでも米国は脱退の道を進むことが見込まれるが、各国の説得が功を奏して再考に至ることを望みたい。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。