パリ協定と日本のエネルギー資源戦略

天然ガスの安定かつ適正価格による調達に向けた課題

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2016年07月06日

  • 大澤 秀一

サマリー

◆日本の将来の電源構成とエネルギーミックス(2030年度の見通しであり、あるべき姿)は、ともすると、温室効果ガス(GHG)削減目標という制約条件の下で決められた可能性がある。GHG削減目標を達成するためには、エネルギーの大宗を占める化石エネルギーの安定的かつ適正な価格による調達体制の確保に向けた資源戦略が重要である。


◆資源戦略としては、海外における資源権益の確保・拡大、日本周辺海域に存在するメタンハイドレートの商業生産、LNG(液化天然ガス)供給源の北米等に向けた多角化、国際LNG市場の形成が挙げられる。それぞれに課題はあるが、官民が連携した事業活動が動き始めており、LNGの供給構造の変化を捉えることができれば、日本は貿易量のみならず、地理的にも世界のLNG需給構造の中心に位置できる可能性がある。


◆国際LNG市場の形成には、硬直的な取引条件(仕向地条項付き長期契約と油価連動価格)を需要側に有利な柔軟性のある契約(スポット取引、仕向地自由、市場価格)に移行させるには交渉力を発揮する必要がある。国内の事業者同士が連携する事例はあるが、LNG調達において共通の利害を持つ隣国との戦略的連携にも踏み込むことも考えられる。また、国内のガスインフラ設備への第三者のアクセスを確保して流動性・融通性を高めておくことも一つの前提条件となる。


◆本稿ではLNGだけを取り上げたが、再生可能エネルギーや原子力発電を含め、石炭、石油、LPガスの他のエネルギー源へのアクセスを確保しておくことも、交渉において重要なカードとなる。本稿にまとめた資源戦略が着実に歩みを進めることで、“将来あるべき”電源構成とエネルギーミックスを達成するための礎となり、結果としてパリ協定で国際誓約したGHG削減目標の達成に貢献できることに期待したい。

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