2014年02月07日
サマリー
平成25年6月に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略」で、経済再生、人口減少や少子高齢化の急速な進行、地球環境問題等の課題の克服のために、科学技術イノベーションに期待される役割が増大していることが指摘され、科学技術イノベーション立国を実現するための戦略が策定された。日本の成長戦略の中核に女性の活躍が位置付けられているように、科学技術の分野でも、多様な視点や発想を取り入れた研究活動を活性化するために、女性研究者の活躍が期待されている。そこで、総務省「科学技術研究調査(※1)」から、科学技術の分野における女性研究者の動向を検討してみた。
図表1が、調査の対象となっている企業、非営利団体、公的機関、大学等における男女別の研究者の数と、研究者に占める女性の割合(女性研究者比率)の推移を図示したものである。直近の平成25年(平成25年3月31日時点)の研究者数は、男性が前年比-1.1%の75万9,200人、女性は前年比+2.5%の12万7,800人とされている。男性研究者数が減少したのに対し、女性研究者数は増加しており、女性研究者比率は前年より0.4%ポイント増の14.4%となった。
平成15年からの推移をみると、男性研究者数は平成16年と平成18年には前年比で4%程度の増加を示したが、平成19年以降はほぼ横ばいとなり、最近では平成24年と25年は連続して減少している。これに対して、女性研究者数は平成16年から増加が続いている。また、平成22年までは5%前後の増加を示す年が多かったが、平成23年と24年の増加率は1%台が続いたのち、平成25年は2.5%と増加率が再び高まった。男性研究者数と女性研究者数の動向の違いから、女性研究者比率は平成15年の11.2%から平成25年には14.4%まで連続して上昇している。
次に、本調査で対象となっている科学技術分野の部門別の女性研究者比率の推移を示したのが図表2である。直近の平成25年における部門別の研究者数は、企業が52万8千人(全体の59.6%)、非営利団体が9千人(同1.0%)、公的機関が3万5千人(同3.9%)、大学等が31万5千人(同35.5%)となっており、ほとんどの研究者が企業や大学等に所属しているようである。そして、女性研究者比率は、企業が8.0%、非営利団体が13.7%、公的機関が15.9%、大学等が25.0%となっている。研究者数が最も多い部門である企業の女性研究者比率が最も低く、次いで研究者数が多い大学等の女性研究者比率は他の部門に比べて非常に高いという状況にある。また、過去からの推移をみると、全ての部門で女性研究者比率は上昇傾向が続いている。ただ、最も研究者数が多い企業部門は女性研究者比率の上昇が他の部門よりも緩やかなようである。
以上のように、科学技術分野における女性研究者比率は全ての部門で上昇が続き、女性の活躍推進が進んでいるようである。しかし、直近の女性研究者の比率14.4%は国際的に見るとまだまだ低い水準にある。内閣府の「男女共同参画白書 平成25年版(※2)」によると、各国の女性研究者比率は英国が38.3%、米国が34.3%、ドイツが24.9%などとなっており、日本における女性研究者を増やすための方策をより一層進める必要があることがわかる。
このような状況を改善するため、女性研究者の人材プールとなる理系分野に進学する女子学生を増やしていくための施策が実施されている。内閣府男女共同参画局では「Challenge Campaign(※3)」として理工系分野への進学を希望し、科学技術分野で活躍することを目指す女子高校生・女子学生に向けて、理工系分野で活躍する女性からのメッセージなどの情報提供を行っている。また、独立行政法人科学技術振興機構は「女子中高生の理系進路選択支援プログラム(※4)」で、科学技術分野で活躍する女性研究者等と女子中高生の交流機会の提供や出前授業の実施など、女子中高生の理系進路選択の支援を行っている。このような活動が理系を選択する女子学生の増加に寄与し、科学技術分野での女性の活躍がさらに推進されることを期待したい。
(※1)総務省「科学技術研究調査」
(※2)内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成25年版」
(※3)内閣府男女共同参画局「Challenge Campaign ~女子高校生・女子学生の理工系分野への選択~」
(※4)独立行政法人科学技術振興機構「理数学習支援センター」の「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」
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