買取制度開始。日本の再エネ普及の鍵を握るのは?

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2012年07月02日

  • 真鍋 裕子

サマリー

7月1日から再生可能エネルギー特別措置法(※1)が施行され、いよいよ日本でも再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT: Feed-in Tariff)がスタートする。経済産業省は、施行直前となる6月18日、買取価格・期間などの条件提示を含む関連省令・告示を公表した(※2)

同制度導入が日本の再生可能エネルギー普及拡大に繋がるかどうか、その鍵を握る項目として最も注目されてきたのは「買取価格・期間」である。今回発表された買取価格・期間は、事業者の利益に配慮されたものとして導入加速への期待感が一気に高まっている。今後も、この毎年更新される「買取価格・期間」が注目の的となるであろうが、中長期的な普及拡大の鍵を握る項目として、「系統接続」と「規制改革」の状況にも注視が必要だ。


同法第5条1項では、電気事業者が再生可能エネルギー発電事業者からの系統接続の要請に応じる義務が定められているが、一方で、いくつかの例外を認めている。今回発表された省令では「接続を拒むことができる正当な理由」として、電気事業者からの要請に応じた年30日以内の出力抑制に同意しないケースがあげられている。これは、ゴールデンウィークなどに供給量が需要量を上回る可能性が生じた場合、発電事業者が電気事業者の要請に応じて発電を抑制または停止しなければならないということを示している。もちろん、事前に電気事業者自らが所有する発電設備の出力抑制を行うことなどが前提条件となっており、当面の発動は限定されると予想されるが、例えば、IRRが6%に設定されている太陽光発電事業も、年間最大30日の発電停止リスクを考慮するとIRRは4.6%(大和総研試算)まで下がり、事業性に大きな影響を与えることになる。また、再生可能エネルギー電力を抑制する(捨てる)ことは環境負荷低減の観点からも避けたい話だ。したがって、こうした出力抑制を要請する事態が生じないよう、電気事業者が調整電源の整備や、地域間連系線の活用、需要側の制御を促す仕組みの構築などを進めていくことが必要であろう。今夏の電力不足対応を目的として、関西電力や東京電力では需要側の制御を促す試みが行われている(※3)。こうした動きが再生可能エネルギー普及のためにも欠かせないものとなろう。

この他にも、接続拒否できるケースとして送電線が送電可能な容量を超えるケースがあげられている。具体的には、現在、各電力会社が公表している風力発電の連系可能容量(総発電容量の5%程度)を超過する場合などである(※4)。しかし、これまでもこの制約により日本の風力資源の活用が妨げられてきた。再生可能エネルギー普及拡大を図るためには、電気事業者が連系可能容量を拡大する努力を続けることが必要である。現在、北海道・東北・東京電力間の連系線を活用した北海道・東北電力管内における連系可能容量引き上げの実証試験や、北陸・四国・九州・関西・中部電力間の連系線を活用した北陸・四国電力の連系可能容量拡大などが行われているが、こうした取組みを積極的に進め、接続拒否を生じさせないことが益々急務となる。


各種規制改革について、同法第39条1項では、再生可能エネルギーの安定的かつ効率的な供給を確保するために国が規制の在り方の見直しなど必要な措置を行うこととされている。本年3月、行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会において、エネルギー分野における規制改革103項目について報告書がまとめられた(※5)。また、国家戦略室エネルギー・環境会議においても、エネルギー規制・制度改革アクションプラン(※6)として重点28項目が掲げられており、実施が進められている。重点28項目の中には、ガイドライン策定やルール規定など事業環境整備にとどまる項目もあるが、実際に法改正に踏み込んでいる項目もある(図表1)。例えば、工場立地法では、製造業等工場における敷地面積の一定比率以上の「環境施設」(運動場など)を確保することが義務づけられているが、6月の関連法改正により売電用の太陽光発電施設も「環境施設」として位置付けることが可能となった。これにより、屋上に太陽光発電施設を設置した場合、現在「環境施設」である敷地を「生産施設」に転用することが可能になる。事業者は電気事業収益以外のメリットも享受できることから普及の大きな後押しとなる。こうした規制改革を7月の制度開始に間に合わせた意義は大きい。

6月29日、国家戦略室エネルギー・環境会議より、日本のエネルギー計画についての「エネルギー・環境に関する選択肢(案)」が公表されたが、いずれのケースも2030年の再生可能エネルギーを全発電電力量の25~35%とすることを目指している。これを実現するためには、前述した「系統接続」、「規制改革」の壁を乗り越えなくてはならず、どこまで踏み込んだ取組みができるのか、日本の本気度が問われている。

図表1 再生可能エネルギーに関する規制改革の進捗状況
図表1 再生可能エネルギーに関する規制改革の進捗状況
(出所)エネルギー・環境会議『「政府のエネルギー規制・制度改革アクションプラン」 (平成24年6月29日)のフォローアップ取りまとめ(案)』等を基に大和総研作成


(※1)正式名称は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」。電気事業者に対して、再生可能エネルギーによる発電電力を一定価格で一定期間買取ることを義務付ける。
(※2)経済産業省 ニュースリリース「再生可能エネルギーの固定価格買取制度について調達価格及び賦課金単価を含む制度の詳細が決定しました」(平成24年6月18日)
(※3)東京電力 プレスリリース「電力デマンドサイドにおける『ビジネス・シナジー・プロポーザル』の審査結果について」(平成24年3月19日 )
(※4)風力発電は出力変動が大きく電力品質に影響を及ぼす可能性が高いため、各電力会社が系統への接続を制限している。関連ニュース「再エネ特措法成立~電力システムに関する議論が益々重要に」(2011年9月2日 大和総研 ESGニュース)
(※5)行政刷新会議「規制・制度改革に関する分科会報告書(エネルギー)」(平成24年3月26日)
(※6)第6回エネルギー・環境会議「エネルギー規制・制度改革アクションプラン~グリーン成長に向けた重点28項目の実行~(案)」(平成24年3月29日)

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