2011年09月02日
サマリー
「革新的エネルギー・環境戦略」の策定に向けて「エネルギー・環境会議」(議長:国家戦略担当大臣)で議論が進められている。その中間整理(※1)が、「日本再生のための戦略に向けて」の一部として8月5日に閣議決定された。中間整理では、6つの重要課題について、短期(今後3年の対応)、中期(2020年を目指して)、長期(2020年から、2030年又は2050年を目指して)の重要論点が示された。各重要論点の具体的内容は、今後議論されるため、まだ明らかではないが、「電力システム」については、短期的には送配電システムの機能性・中立性を高めること、中長期的には分散型エネルギー社会に適した電力事業形態のあり方(発送電分離を含む)を実現していくこと等が示された(図表1)。
図表1 6つの重要課題の論点整理(「電力システム」のみ抜粋)
(出所)「日本再生のための戦略に向けて」(平成23年8月5日閣議決定)より大和総研作成
「電力システム」に関する議論は今後、益々重要性を帯びてくると考えられる。8月26日に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下、再エネ特措法(※2))により、わが国でも再生可能エネルギーの導入拡大が期待されている。どの程度普及するかについて、今後決定される買取価格・買取期間に関心が集まっている。しかし、系統接続についても課題があることに注意しなくてはならない。再エネ特措法では、電力会社が「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」に、再生可能エネルギー電源の系統接続を拒否することが認められている。現在、出力変動の大きい風力発電による電力は、「電力品質に影響を及ぼす」との理由から、電力会社別に系統接続できる量(連系可能容量)が定められているが(368.5万kW+α、図表2)、同様の理由による接続拒否が認められれば、日本全国2億8,000万kW(洋上を含めると19億kW)と試算される風力発電の導入ポテンシャル(※3)も有効に活用できるのはほんの数%に限られてしまう。一方で、電力の品質低下は生産活動に影響を与えると考えられ、電力会社が連系に慎重になる理由も理解できる。
図表2 電力会社の連系可能容量と既連系量
(出所)第1回次世代送配電システム制度検討会第1WG(平成22年6月8日)配布資料より大和総研作成
ただ、これまで電力会社が一方的に提示してきた連系可能容量について、透明性を高め、容量拡大に向けた議論を進めようとする動きもある。ESCJ(一般社団法人電力系統利用協議会(※4))では、連系可能容量の合理性を評価し、その結果を広く公開していくために中立的な委員会設置等の準備を進めている。また、東京・東北・北海道電力が、風力利用拡大のために共同で実証試験を行う等、地域間連系に向けた動きもある。当面はこうした対策により、連系可能容量の透明性の高い再評価が進められることを期待したい。さらに、原発への依存度低減により国内の電源構成が変われば、調整能力に優れた火力発電の発電比率が高まり、風力等自然エネルギーの連系可能容量が増加する可能性も考えられる。
しかし、洋上風力等も含めた、さらなる導入拡大を進めるには、最終的には投資を伴う系統の増強が求められてくるだろう。系統強化にかかるコストは電力料金に反映され国民負担となるため、民間企業間で議論を進めるには限界がある。フランスでは、政府が再生可能エネルギー導入目標を掲げ、その実現のための系統増強計画が同時に進められている(※5)。日本ではまだ再生可能エネルギーの導入目標が定められていない。今後、「革新的エネルギー・環境戦略」で正式な導入目標が掲げられること、また、その実現に向けた系統増強計画作りを国民の理解と政府のリーダーシップの下で進めていくことが重要となろう。
(※1)正式名称は、『「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理』
(※2)一定の条件を満たす再生可能エネルギー由来の電気を、電気事業者が一定の価格で一定期間買い取ることを義務付けることで、再生可能エネルギーの導入拡大を図る。
(※3)「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」平成23年4月21日環境省より。
(※4)送配電線利用の公平性・透明性・中立性の確保を目的に2004年設立された中立機関。中立者(学識経験者)、一般電気事業者、特定規模電気事業者、卸電気事業者、自家発事業者等を会員として、系統に関する様々なルール策定、情報提供、紛争処理等を行っている。
(※5)グルネル2法(2010年7月に成立)。
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