2012年06月29日
サマリー
6月20日から22日の期間に、ブラジルのリオデジャネイロで「国連持続可能な開発会議(リオ+20)(※1)」が開催された。国連加盟の188ヶ国などから約4万人が参加した同会議では、全283パラグラフにわたる「我々の求める未来(The future we want) (※2)」という成果文書が採択されている。

日本からは玄葉外務大臣が政府代表として演説を行い、人間の安全保障の考え方に立ち、「緑の未来」をつくるための取り組みを実行していくことが表明された。具体的には、優れた環境技術・基幹インフラ・強靭性を備えた「環境未来都市」を世界に広めること、3年間で1万人規模の「緑の協力隊」を編成し、各国のグリーン経済への移行を支援すること、そして、数多くの震災からの復興経験を踏まえ、各国の強靭な社会づくりを支援すること、などが述べられている。グリーン経済への移行の分野と防災に関わる分野では、今後3年間でそれぞれ30億ドルの支援を行うことも表明されている(※3)。
環境省からは、成果文書の内容を具体的に実施するための提案として、「環境省イニシアティブ」が国連事務局に提出されている(※4)。同文書では、国内において「2050年に温室効果ガス排出を80%削減する低炭素社会、3R(※5)を基調とした循環型社会、生物多様性を基盤とした自然共生社会を目指していく」ことが表明されている。また、アジア太平洋地域を中心とする世界において、成果文書のⅤの内容として掲げられた水や気候変動などの主要な優先分野で、日本が積極的に推進する取り組みなども示されている。
同会議の開催に伴って、「日本のグリーン・イノベーション-復興への力、世界との絆」をテーマとして、ジャパンパビリオンも設置された。企業や官公庁、自治体などによる展示で日本の優れた環境・省エネ技術などが紹介されたほか、東北の復興と日本の多面的魅力をアピールするセミナーや「ジャパンイブニング~Tohoku Forward」などのイベントも開催されている。このパビリオンには、12日間の設置期間中に各国から18,000人余りが訪れたという。
事前準備の段階で日本は、経済社会の進歩を計測する指標として、「幸福度」を提案していた(※6)。しかし、途上国などの反対があり、GDPを補完する指標の必要性を認識し、指標開発への取り組みを進めるという取り扱いに落ち着いたようである。幸福度を尺度にして測れば、途上国が先進国を上回る場合もあり得る。そのような場合に、途上国にも応分の責任や負担が求められることが懸念されたのかもしれない。既に経済成長を遂げた先進国と、これから開発を進めて経済規模拡大を図りたい途上国では、その立場に大きな違いがあるということであろう。
今回の会議については、リオ宣言(※7)を再確認するにとどまり、新たな取り組みや具体的なコミットメントが少ないなどの批判的な評価もみられる。たしかに、成果文書には、循環型社会の3Rよりも、「Recognize」「Reaffirm」「Reiterate」などのRが目立っている印象も受ける。しかし、途上国と先進国が対峙する構図に、急成長を遂げている新興国の立場が加わり、状況が20年前より複雑になっている背景もある。先進各国が景気低迷や財政問題に苦しむ傍ら、現在のインドのGDPは20年前のドイツの水準に達しており、中国のGDPは既に日本を上回っている。
リオ宣言に盛り込まれた「共通だが差異ある責任」という考え方は、今回の成果文書でも再確認されているが、先進国からみれば、責任の差異は縮まったということになろう。これに対して、漸く成長軌道に乗り始めた国々では、経済成長の制約要因や大きな負担は受け入れにくいであろう。貧困を撲滅するために、先進国や新興国の理解や援助を必要とする国も少なくない。しかし、各国がどのように主張しようとも、解決しなければならない課題が減るわけではない。将来への責任の総和が、小さくなるわけでもない。共通の課題を解決するためには、各国が自らの責任を自覚して、最大限の努力を積み重ねていくことが重要であろう。

(※1)1992年にリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」から20年目にあたり、この会議はリオ+20と呼ばれている。
(※2)「The future we want 」UNCSD(United Nations Conference on Sustainable Development)
(※3)「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」外務省
(※4)「国連持続可能な開発会議(リオ+20)における『環境省イニシアティブ』の国連事務局への提出について(お知らせ)」 環境省
(※5)環境と経済が両立した循環型社会を形成してくキーワードとして、Reduce、Reuse、Recycle を指す
(※6)「国連持続可能な開発会議(リオ+20)成果文書への日本政府インプット」外務省
(※7)1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」

日本からは玄葉外務大臣が政府代表として演説を行い、人間の安全保障の考え方に立ち、「緑の未来」をつくるための取り組みを実行していくことが表明された。具体的には、優れた環境技術・基幹インフラ・強靭性を備えた「環境未来都市」を世界に広めること、3年間で1万人規模の「緑の協力隊」を編成し、各国のグリーン経済への移行を支援すること、そして、数多くの震災からの復興経験を踏まえ、各国の強靭な社会づくりを支援すること、などが述べられている。グリーン経済への移行の分野と防災に関わる分野では、今後3年間でそれぞれ30億ドルの支援を行うことも表明されている(※3)。
環境省からは、成果文書の内容を具体的に実施するための提案として、「環境省イニシアティブ」が国連事務局に提出されている(※4)。同文書では、国内において「2050年に温室効果ガス排出を80%削減する低炭素社会、3R(※5)を基調とした循環型社会、生物多様性を基盤とした自然共生社会を目指していく」ことが表明されている。また、アジア太平洋地域を中心とする世界において、成果文書のⅤの内容として掲げられた水や気候変動などの主要な優先分野で、日本が積極的に推進する取り組みなども示されている。
同会議の開催に伴って、「日本のグリーン・イノベーション-復興への力、世界との絆」をテーマとして、ジャパンパビリオンも設置された。企業や官公庁、自治体などによる展示で日本の優れた環境・省エネ技術などが紹介されたほか、東北の復興と日本の多面的魅力をアピールするセミナーや「ジャパンイブニング~Tohoku Forward」などのイベントも開催されている。このパビリオンには、12日間の設置期間中に各国から18,000人余りが訪れたという。
事前準備の段階で日本は、経済社会の進歩を計測する指標として、「幸福度」を提案していた(※6)。しかし、途上国などの反対があり、GDPを補完する指標の必要性を認識し、指標開発への取り組みを進めるという取り扱いに落ち着いたようである。幸福度を尺度にして測れば、途上国が先進国を上回る場合もあり得る。そのような場合に、途上国にも応分の責任や負担が求められることが懸念されたのかもしれない。既に経済成長を遂げた先進国と、これから開発を進めて経済規模拡大を図りたい途上国では、その立場に大きな違いがあるということであろう。
今回の会議については、リオ宣言(※7)を再確認するにとどまり、新たな取り組みや具体的なコミットメントが少ないなどの批判的な評価もみられる。たしかに、成果文書には、循環型社会の3Rよりも、「Recognize」「Reaffirm」「Reiterate」などのRが目立っている印象も受ける。しかし、途上国と先進国が対峙する構図に、急成長を遂げている新興国の立場が加わり、状況が20年前より複雑になっている背景もある。先進各国が景気低迷や財政問題に苦しむ傍ら、現在のインドのGDPは20年前のドイツの水準に達しており、中国のGDPは既に日本を上回っている。
リオ宣言に盛り込まれた「共通だが差異ある責任」という考え方は、今回の成果文書でも再確認されているが、先進国からみれば、責任の差異は縮まったということになろう。これに対して、漸く成長軌道に乗り始めた国々では、経済成長の制約要因や大きな負担は受け入れにくいであろう。貧困を撲滅するために、先進国や新興国の理解や援助を必要とする国も少なくない。しかし、各国がどのように主張しようとも、解決しなければならない課題が減るわけではない。将来への責任の総和が、小さくなるわけでもない。共通の課題を解決するためには、各国が自らの責任を自覚して、最大限の努力を積み重ねていくことが重要であろう。

(※1)1992年にリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」から20年目にあたり、この会議はリオ+20と呼ばれている。
(※2)「The future we want 」UNCSD(United Nations Conference on Sustainable Development)
(※3)「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」外務省
(※4)「国連持続可能な開発会議(リオ+20)における『環境省イニシアティブ』の国連事務局への提出について(お知らせ)」 環境省
(※5)環境と経済が両立した循環型社会を形成してくキーワードとして、Reduce、Reuse、Recycle を指す
(※6)「国連持続可能な開発会議(リオ+20)成果文書への日本政府インプット」外務省
(※7)1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」
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