女性取締役でみた女性の活躍状況の国際比較

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  • 伊藤 正晴

サマリー

少子高齢化による労働力人口の減少が懸念されるなか、企業における女性の活躍推進が求められている。女性の活躍推進により、優秀な人材を確保するための母集団を広げることや、製品開発や業務改革などにさまざまな意見やアイデアを出し合うことなどで、企業パフォーマンスの向上につながることが期待される。そして、コーポレート・ガバナンスの面でも多様な視点を取り入れることで、ガバナンスの改善に資することが期待される。そこで、企業が女性の力を活かしているかを端的に示す指標のひとつと考えられる女性取締役について、国際的な比較を行ってみた。

図表1は、いくつかの国の女性取締役を有する企業の比率と女性取締役比率(全取締役数に占める女性取締役数の比率)を示したものである(※1)。まず、女性取締役を有する企業の比率をみると、欧州では英国の59.4%からノルウェーの100.0%まで水準の違いはあるが、いずれも取締役を有する企業が半数を超えている。また、米国も79.3%と高い。アジアは他地域に比べると比率は低いが、中国では欧米と同様に女性取締役を有する企業が過半数を占めている。韓国は、他の国に比べると比率が低く11.6%にとどまっている。そして、日本の比率は6.1%と非常に低く、韓国の約半分の水準でしかない。

次に、女性取締役比率ではノルウェーが37.9%と突出して高く、また日本と韓国を除くと残りの国はいずれも10%強の水準となっている。韓国の女性取締役比率は1.8%で、他の国に比べると非常に低いが、日本は0.7%しかなく、韓国と比べても半分以下の水準となっている。ノルウェーでの比率が高い背景には、2003年に上場企業の取締役に関するクオータ制(※2)の導入が決定されたことがあると考えられる。この制度はEU全体でも導入が検討されており、今後、ますます女性取締役が増えることが予想される。欧米に比べ、アジアでは全体に女性の活躍推進が遅れているが、なかでも特に日本が大きく後れを取っているようである。

図表1.女性取締役を有する企業と女性取締役の比率
図表1.女性取締役を有する企業と女性取締役の比率
(出所)ブルームバーグより大和総研作成


図表2は、各国企業の女性取締役比率の相対度数分布を作成し、分布の形状が似ている国ごとに掲載したものである。まず、日本とドイツは女性取締役比率が10%以下の企業が過半数を占めており、他の国に比べると女性の活躍推進が遅れている企業の割合が高い。フランスと米国では女性取締役比率が20%以下までの3つのゾーンの企業が同程度となっている。また、日本やドイツと比べると10%以下の相対度数が小さく、日本やドイツよりも女性の活躍が進んでいるといえよう。英国、中国、韓国では女性取締役比率が10%から15%のゾーンにピークがあり、フランスや米国と比べると企業間でのばらつきが小さい。英国、中国、韓国は分布の形状が似ているが、中国は女性取締役比率が高いゾーンでの相対度数が大きく、女性の活躍が進んでいる企業が多いようである。ノルウェーはクオータ制を導入しているためか、女性取締役比率が35%から40%のゾーンがピークとなっており、40%から45%の相対度数も大きい。取締役の半数近くが女性である企業が多く、女性取締役という指標でみると他の国に比べて女性の活躍が最も進んでいることがわかる。

図表2.女性取締役比率の相対度数分布
図表2.女性取締役比率の相対度数分布
(出所)ブルームバーグより大和総研作成


以上のように、各国の女性取締役の状況をみると日本は女性取締役を有する企業や女性取締役比率が非常に低く、日本企業における女性の活躍推進が大きく劣っていることが示唆されよう。もちろん、女性取締役が増えることが企業パフォーマンスの向上に必ず結びつくとは限らないが、日本の現状は女性が活躍しているとは言い難い状況といえよう。ワーク・ライフ・バランスに関する意識が高まり、さまざまな取り組みが行われてきているが、今後も育児や介護等との両立支援など官民連携で女性の活躍を推し進めていくための更なる方策を講じていく必要があるのではないか。


(※1)各国の分析対象社数は、日本(938社)、フランス(86社)、ドイツ(57社)、英国(313社)、ノルウェー(25社)、米国(1020社)、中国(607社)、韓国(189社)となっている。
(※2)一定枠を男性、女性に割り当てる制度。ノルウェーでは、取締役の少なくとも4割を、男女それぞれに割り当てることが義務付けられた。

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