家庭用燃料電池、2011年度導入量は過去最高

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2012年04月16日

  • 真鍋 裕子

サマリー

2011年度、「民生用燃料電池導入支援事業」に基づく家庭用燃料電池(エネファーム)の導入量は18,000台を超え、前年比3.6倍の増加となった(図表)。東日本大震災を受け、自家発電設備や省エネルギーへの関心が高まったためである。

日本の家庭用燃料電池の商用化は、世界に先駆けて2009年にスタートし、着々と普及が進められている。順調に商用化フェーズに入ることができたのは、2005~2008年度の実証フェーズにおいて商用化に向けた十分な準備が行われてきたためである。2005年からスタートした「定置用燃料電池大規模実証事業」では、燃料供給会社、燃料電池メーカーなどが参加し、総数3,307台の燃料電池を実際の家庭に設置、商品化に向けた検証と技術開発、製造準備、メンテナンス体制づくり等が行われてきた。その間、家庭用燃料電池は1台あたり平均770万円から329万円と57%のコストダウンに成功、発電効率も2%以上向上、予定外停止(トラブル)についても1台当り年間1件以下となった(※1)。現在は、政府の助成制度のもとで導入が進められているが、引き続きコストダウンが課題であり、2015年には販売価格を1台あたり70~80万円として本格普及フェーズへ繋げる計画だ。

新たな技術開発も進められている。昨年10月、固体酸化物型燃料電池(SOFC)による新商品が登場した。これまで主流であった固体高分子型燃料電池(PEFC)では、発電効率は40%弱であったが、SOFCでは、作動温度が700℃と高いため起動停止に時間が掛かるものの、燃料改質装置が不要であることなどから発電効率が最高45%(※2)と高い。また、触媒に白金などを用いないことからコストダウンの可能性も高い。将来的には業務・工場用の中大型機向けとして期待がかかる技術だ。

震災以降、従来の大規模集中型電源だけでなく、分散型電源を見直す動きが強まっている。燃料電池などの分散型電源の利点は、非常時の電源として利用できることだけでなく、廃熱を利用することでコージェネレーションとして高い総合効率を得ることができるという点だ。大規模火力発電所では、発電効率が50%程度(※3)の場合、燃料の持つエネルギーの50%程度を捨てることになるが、燃料電池では、熱利用も含めた総合効率が80%以上になるため、捨てるエネルギーは20%程度ですむ。近傍に熱需要があることが必須条件となるが、家庭には必ず熱需要があることから、分散型電源として家庭用燃料電池を普及させることはエネルギー効率の面からも適している。現在は、世界に先駆けて普及が進んでいるが、かつて世界に先行した太陽電池のように失速することがないよう、海外進出も含めて期待したい分野である。


図表 「民生用燃料電池支援事業」による燃料電池導入量
(※2011年は申込み受付台数)
図表 「民生用燃料電池支援事業」による燃料電池導入量
(出所:一般社団法人燃料電池普及促進協会公表資料より大和総研作成)

(※1)平成21年度「定置用燃料電池大規模実証事業報告書」(平成22年3月)、財団法人新エネルギー財団
(※2)当該商品の発電効率。実験レベル等ではさらに高い発電効率を実現しているケースもある。
(※3)最近建設されたLNG火力発電所を想定

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