ソーシャルビジネスレポート Case Study 7 池内タオル株式会社

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2012年04月16日

  • 真鍋 裕子

サマリー

◆池内タオル株式会社は、1953年に創業、愛媛県今治市に本社を置く従業員26名の「オーガニック・テキスタイル・カンパニー」である。“母親が命よりも大切にする赤ちゃんに安全なタオルを届ける”という基本理念のもと、1999年に自社ブランドIKTを立ち上げる。IKTは、安全性で世界一厳しいとされるエコテックス規格のクラス1(=赤ちゃんが口に入れていいレベル)を取得、品質面ではNYホームテキスタイルショーでグランプリを獲得した。IKTは、製造工程で使用する電力に風力発電を用いることから「風で織るタオル」として商標登録され、2003年の年商700万円から2010年には年商4億円をあげるまで成長した。

◆IKTの製造ポリシーは「最大限の安全と最小限の環境負荷」。そもそもタオル製造工程は様々な社会的課題を抱えてきた。綿花栽培で使用される大量の農薬と化学肥料による土壌汚染や水質汚染、農民の中毒死や気管支障害等の健康被害など。同社は、農薬や化学肥料を使用しないオーガニック・コットンを用いることでこれらの課題に対応している。さらに、綿花栽培は南北問題も抱えている。綿花相場の急落や不作の影響で借金が支払えなくなり農民の自殺者が急増、児童労働問題なども指摘されている。同社は、スイス・リーメイ社のフェアトレード・コットンを用いることで適正価格による継続的な購買を行っている。また、自社工場においても、業界初のISO取得にはじまり、風力発電によるグリーン電力を利用するなど先進的な取り組みを行っている。

◆同社の製品が市場で差別化されている理由は、「環境」「安全」への対応ももちろんだが、確かな技術力による「品質」にもある。オーガニック・コットン市場は年率35~40%で拡大している。同社はこの市場の中で、IKTのノウハウをタオル以外のテキスタイル(ベビー用品、シーツ等)に広げていく計画だ。

◆同社の成長の軌跡を振り返ると、社会的企業の成長プロセスに見られるソーシャル・イノベーションの循環サイクルを経てきたことがわかる。これまでの成功要因のひとつは、ソーシャル・イノベーションに欠かせないとされるステークホルダーとの関係性を重視してきたことにある。社会的企業として成長する要素を持つ同社が、今後どのような社会的課題を手がけ、成長を続けるのか楽しみにしたい。

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