中国政府が「都市鉱産」モデル基地を指定、循環経済発展を促進

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2011年12月05日

  • 横塚 仁士

サマリー

中国政府は10月19日に、国家発展改革委員会と国家財政部の両部門が共同で「都市鉱産」モデル基地(以下、モデル基地)を指定したと発表した。上海市の「上海燕竜基再生資源利用モデル基地」等15拠点(※1)にモデル基地が誕生した。

上記の両部門は2010年5月に「都市鉱産モデル基地の建設の展開に関する通知」(以下、通知)を公表、中国内に都市鉱産モデル基地を普及させる方向性を打ち出した。政府は同時に2015年までにモデル基地を30拠点に増やす考えを明らかにしており、同通知を受けて今年(2011年)1月までに天津市の「天津子牙循環経済産業区」等7拠点(※2)を第1次モデル基地として指定していた。

政府が今年3月に公表した第12次5カ年計画(2011年~2015年)の要綱では、モデル基地の設立が政府の進める「循環型経済」構築のための重点事業の一つに位置づけられ、基地数についても当初目標の30拠点から拡大して50拠点とすることが明記された。今回(10月)の発表により、モデル基地数は政府目標の半数近くとなる22拠点となった。

モデル基地では、工業生産や都市部での生活において排出・蓄積された使用済み機械や電線・ケーブル、通信機器、自動車、家電製品、電子機器・部品、プラスチックや廃棄物等から、鉄鋼や非鉄金属、貴金属、プラスチック等の再生利用な部分を取り出し、再利用・再資源化を行うことで政府の目指す循環経済の発展を促す。モデル基地に指定された拠点は、現地政府(省・市・区等)により政策的なサポートを受けることになり、関連企業の集積や回収ルートの確立等資源循環の仕組みの構築が官民の協力のもとで進められる。

中国において「都市鉱産」モデル基地が必要とされる背景として、以下の2点が指摘される。

(1)国内での資源消費・利用の増加に伴うリサイクルの重要性の高まり
(2)廃棄物回収時の2次汚染の深刻化

(1)については、中国では経済発展により鉄鋼消費量等が大幅に増加していることを受けて国内の鉱物資源の不足が顕在化している。これにより輸入原料への依存度が高まっているため、政府は資源問題が経済成長に負の影響をもたらすのではないかという危機感を強めている。一方で、中国内では廃鉄等の廃棄原料が毎年大量に排出されており、これらを有効利用することで資源問題を改善しようという考えがモデル基地指定の背景にある。

中国では2008年時点で非鉄金属製品の主要10品目総量の21%に相当する530万トンが再生利用され、そのうち銅製品では約50%が再生利用されている等、資源の再利用が一部の産業を中心に進んでいる。しかし、正規のリサイクルルートの確立が進んでおらず、リサイクル産業の大部分を占める中小・零細の事業者がそれぞれ独自に確立した非正規のルートで回収を進めてしまうこと等から、大規模化(集約して効率的にリサイクルを行う)という点で大きな課題がある。モデル基地の指定により、これらの問題が解決され、大規模かつ効率的なリサイクルルートが確立されることが期待されている。

また、中国廃鋼鉄応用協会によると、中国の主要鉄鋼企業は2010年に約8,670万トンの廃鉄を有効利用している。廃鉄利用により、年間で1,675万トン相当の二酸化炭素や2.6億~4.3億トン相当の廃水の排出量削減につながる効果もあり、モデル基地の普及による廃棄資源の有効活用という点でも注目されている。

(2)については、電子機器等の回収や解体の過程において、作業担当者の環境問題に対する意識の低さ等により、作業者自身や周辺地域に深刻な環境汚染を引き起こすケースもある(※3)。そのため、モデル基地内での適切な管理体制の構築が求められている。

政府によるモデル基地の推進を受け、北京市が10月に「北京市“十二五”時期緑色北京発展建設規画」を公表し、都市鉱産モデルの推進を打ち出す等の動きも出ている。図表3では工業部門で発生する廃棄物のデータを地域別に示したが、中国内では産業構造や経済発展の段階が地域別に異なるためリサイクルの状況も大きく異なる。また、リサイクルルートが確立されても、非正規ルートのほうが高い価格で取引される地域も多いとされ、廃棄・旧家電等の廃品を正規ルートに載せるための取組みも必要になる。モデル基地の指定により回収ルートの確立と効率的なリサイクルの仕組み作りが進むかどうかは、中国の持続可能な発展という面でも重要な要素になるであろう。

図表:中国の工業固形廃棄物産出量と総合利用率(注)(2009年:行政区別)図表:中国の工業固形廃棄物産出量と総合利用率(注)(2009年:行政区別)
(注)総合利用:企業が回収・加工・循環・交換等の方法により、廃棄物から利用可能な資源、エネルギーやその他原材料として利用可能な分を取り出すまたは変換させる処理方法。なおチベット自治区は排出量が11.1万トンと他の行政区に比べて非常に少ないため本図表では割愛した。
(出所)中国環境統計公報、中国統計年鑑に基づき大和総研作成

(※1)上海市のほかに、広西チワン族自治区、江蘇省、山東省、重慶市、浙江省、湖北省、大連市、江西省、河北省、河南省、福建省、寧夏回族自治区、北京市、遼寧省内のリサイクルや廃棄物処理等を行う拠点がモデル基地として指定された。
(※2)天津市のほか、安徽省、湖南省、広東省、四川省、寧波市(浙江省)、青島市(山東省)の合計7カ所が指定され、これらの拠点は、2015年までにリサイクル能力を銅190万トン、アルミニウム80万トン、鉛35万トン、プラスチック180万トンに引き上げる計画である。
(※3)例えば、中国の「緑E広州」という団体が2010年6月に公表した報告書では、電子廃棄物が多いとされる広東省でのリサイクル・解体業者の現状を紹介しているが、軽装で作業を行う等本来必要であるはずの対応等がなされていないケースもあり、多くの業者が環境問題への意識が低いことに起因しているという。

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